こちらに頭を下げて門から出て行く彼女の後ろ姿を見送る。
迎えにか少し遠くに控えていたのは吠舞羅のNo.2草薙出雲だろう。
綺麗な夕焼け。
そう思いながら舎に戻ろうと踵を返せば、宗像室長が口を開いた。
「恋人とはいいものですね」
「はぁ…」
「純粋に愛し合うものたちを見るのは実に微笑ましい」
「…」
あれは微笑ましいものを見る表情だったのかと考えると少々疑問に思う。
「がむしゃらに周防を止めてくれるのかと思いましたが、効果はなかったようですね」
それほど残念そうではない言葉は予想通りだったという判断だろう。
「時に御崎さん。もし私が囚われの身となったとき、貴方は私に会いにきてくれますか?」
「…応えなきゃいけない質問ですか」
「ええ、必ず」
一つあからさまに溜め息を零してみる。
伏見の舌打ちよりはいいはずだ。
背を向けていたのを室長へと向き直り、その表情を覗えば何か楽しげなものを待つ目があった。
室長が夕日に照らされてオレンジ色に染まっている。
「…第一に宗像室長が囚われとなれば、面会に行くどころかセプター4自体が危うくなります。
赤の王は草薙という吠舞羅の頭脳とも言える右腕がいますが、
セプター4の頭脳は宗像室長ですから。
世理は頑張るでしょうし、伏見も今よりは率先するでしょう。
ですが、宗像室長の知識と導き出す答えには敵わない。
よって…。世理は是が非でも敬愛する宗像室長に会いに行くでしょうが、私には面会に行く時間はないでしょうね」
つらつらと答えた私の言葉に宗像室長は何か考えるように顎に自分の拳を添えた。
「そうですか。たまには周防のようにのんびりとした時間も過ごしてみたいのですが」
「私が判断するわけではないですが、恐らく却下、でしょうね」
「困りましたね。では私はどうやって心安らぐ時間を持てばよいのでしょう」
「…お茶を点てたり、とか?」
「それでは今と変わりませんね。ではこうしましょう。御崎さん、私と恋人になってください」
普段と何ら変わらない宗像室長の口調。
何を言っているんだろう、この人は。
私は今きっと間抜けな顔をしている。
室長の言葉を反芻しても理解が追いつかない。
「… … …。ご冗談は…」
「冗談ではありません」
ようやく出た言葉もピシャリと遮られる。
「…あの、若くて可愛い子なら世理や他のところにもいますし」
「貴方がいいと言ったら?」
「…わけがわかりません」
「御崎さんは明日お休みでしたね。
ではまずはお互いをよく知るため、今晩食事を一緒に取りましょう。後ほどご連絡します」
眼鏡のブリッジを指で上げながら、満足気に微笑んで私の横を通り過ぎていく室長に声をかけた。
「…拒否権は?」
「あるとでも?」
流し目が私を捕らえる。
「………承知、しました」
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