薄桜鬼・妄想小説【君の名を呼ぶ】第41話 | 浅葱色の空の下。

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薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。



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このお話に関してはまだ目次がないので、
遡って読まれたい方はお手数ですが、
ブログのテーマ別から選択して読んでやってくださいm(_ _ )m





いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。



かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。















翌日。夜の帳が下り、その色が闇へと染まり始めた頃。


山南は冴を連れ、とある広間へと向かう。



「皆さん、お待たせしました」


山南の静かながらも何かを含んだような声が広間に通る。


山南の後に続き、部屋に入れば冴の姿を見、部屋にいたもの達が息を飲む音を聞いた。


冴が部屋を見渡せばそこにいたのは三十数人の隊士たち。


皆、…顔を知ってるものたちばかり。



今ここには羅刹が集っている。

冴は羅刹を嫌悪していたため、羅刹の情報に関しては無知に等しい。



自分の予想以上に羅刹の存在がこの屯所内にいたことに背筋を凍らせる。

そして自分もこの者たちと同じなのかと、その事実が突き刺さる。


羅刹である隊士たちも「四番組組長の松原が羅刹になった」という事実に目を丸くしていた。



「皆さん、松原さんもこの羅刹隊に入隊することとなりました。
ご存知のように組長も勤められた腕も確かな方。
羅刹隊の更なる強化に繋がるものとなるでしょう。
松原さん、宜しくお願いしますね」

冴は皆に向けて静かに頭を下げる。


「新撰組は我ら羅刹隊によって確固たる強さを手に入れることとなる。
時代は進みます。我らが必要とされる時も近いはず。
今はその機会を窺いましょう。
それでは皆さん、今宵の持ち場に付き、隊務を果たしてください。
解散」

皆は山南に頭を下げ、口を開くこともなく静かに広間を出て行く。


「松原さんは私と共に見回りを。
通常の見回りの意味もありますが、狂うものが出ていないか、狂う兆候があるかなど
見ていただきたいのです。
慣れたら単独行動で構いません。1人で回るほうが見張るには都合がいいことが多いですしね。
それでは日を跨いだ頃に私の部屋へと来ていただけますか?
それまでは色々と準備などがあるかもしれません。ご自由にお過ごし下さい。
ただしあちら側には足を踏み入れませんように」


「承知しました」

山南の言葉に静かに応える冴。


「ではまた後ほど」

満足気に笑みを浮かべた山南は踵を返し、廊下を進んでいく。

その背中を冴はぼんやりと見つめていた。





新しく移ってきた自室に入る冴。


鞘から刀を抜き、手入れを始める。



『この刀は…』


何とも言えない感情が冴の胸に広がる。



浮かぶはこの愛刀を遺してくれた祖父の顔。


そして、愛しき沖田の顔。



部屋で独り、息を吐く。


永倉や藤堂のようにはしゃぐ者はいないであろうこの場所一帯は静まり返り、その静かさが不気味さを呼んでいた。







闇が闇を引き寄せる刻。



山南は冴を連れ、配置されている羅刹たちを見回っていく。


堂々と、ではなく、身を潜めながら。



敵方からの深夜の襲撃があるという可能性は否定できない。

休んでいる隊士たちが襲撃の際にすぐさま場所を把握し、対応出来るとは限らない。

そこに間が出来てしまう。

羅刹が配置されていることで、休んでいる隊士よりは即刻対処出来る。

その利点は冴にも理解出来る。

薩長に打ち勝つためにも羅刹を利用しない手はないだろう。

そして自分もそういう存在として生かされた。





ふと立ち止まり見上げれば雲の切れ間から闇夜に浮かぶ欠けた月。

秋を含んだようなひんやりとした風が一陣駆けて行き、ふわりと髪が顔を撫でた。



「さて、そろそろ部屋に戻りましょうか。私の部屋まで来ていただけますね?」

あくまでも優しい物腰の山南に冴は視線を戻す。


交わった視線。

山南の視線は冴を見ているようで、冴の中にいる何かを捕らえているかのようだった。


「はい」

静かに応えた冴は山南に続く。

踏みしめる砂利の音が闇の中へと消えていった。





山南の部屋に入り、静かに向かい合い正座する二人。


「お疲れ様でした」


「いえ、私は何も」


「先程までのように身を潜めながら彼らの様子を窺っていただきたい」


「…承知しました」

目を伏せつつ、軽く頭を下げる冴。



「…松原さん、羅刹の吸血衝動はどうやって発症するかご存知ですか?」


「…いえ」


「フラフラと身体が揺れていたりなど、兆候が現れる場合もありますが、それは極稀で殆どが突発的なものとなります。
見回ってきた隊士たちも先程までは普段どおりでしたが、今狂うかもしれない。そういう状況です。
なので、松原さんには一晩中隊士たちを見張っていただくこととなります」


「…はい」


「狂った際には連鎖反応を起こす場合もあるので、処理は迅速にお願いします」


「…はい」

訪れた静かな沈黙に冴がそっと口を開いた。


「…山南さんはどうされるのですか?」


「私は松原さんがこちらに来てくださったので、存分に若変水の改良の研究を続けることとします。
この新撰組には羅刹の存在が必要ですから」


「…そう、ですか」

ふわりと微笑んだ山南に冴の心はざわめいた。


『嗚呼、この人は羅刹の存在を好んでいる』と。




「では見回りをお願いできますでしょうか。隊務が解かれる夜が明けるまで」


「…いってまいります」


「ああ、失礼しました。これをお渡しするのを忘れていましたね」

立ち上がった冴に声をかけ、引き出しの中から何かを取り出す山南。



「松原さん、これを…」


「これは?」

山南の掌にある包を見つめる。


「松本先生が作ってくださった吸血衝動を抑える薬です。
もし貴方に吸血衝動が現れた場合、このクスリを飲めば衝動は抑えられます」


「…山南さん」


「はい」


「この薬を隊士たちに配れば…」


「それは出来かねます」


「…何故、ですか?」


「数が少なすぎるのです」


「…」


「この羅刹隊の中で、頭となるのは私と…松原さん、貴方です。
私たちが狂って殺されてしまっては羅刹たちは居場所を失くしてしまう。
ですから私たちは死ぬわけにはいかないのですよ」


「…」

山南の言葉に口をきゅっと結んだ冴。


その様を見た山南がクスリと笑う。


「貴方はお優しい方ですからね。すぐに狂った者たちに飲ませようとするでしょう。
でもそれは私が許しません。沖田君たちを悲しませたくはないでしょう?それに…やっと傍にいれるのですから」


「…何をおっしゃっているか…」

フッと目を細めた山南に冴は戸惑い気味に言葉を零した。


「…まぁ、いいでしょう。貴方にこの薬を沢山預けておくことはいささか不安ですね。
とりあえず1包渡しておきますので、なくなったらまた受取にきてください」


「…」

一つ、受け取った冴はそれを懐にしまい、部屋を出ようと背を向けた。


その背に山南が言葉をかける。


「もう私たちは羅刹として生きる道しかないのですよ?不安はあるでしょうが、私と共に…」


刹那、闇を切り裂くような狂声が耳に届いた。


「…っ?!」


「嗚呼、どこかで狂っていますね。松原さんお願いできますか?私も後から参りましょう」


「…」


「くれぐれも迅速に」

普段と変わらない落ち着いた山南。


唇を噛んだ冴は何かを振り切るように部屋を飛び出し、駆け出した。