薄桜鬼・妄想小説【君の名を呼ぶ】第37話 | 浅葱色の空の下。

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薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。





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このお話に関してはまだ目次がないので、
遡って読まれたい方はお手数ですが、
ブログのテーマ別から選択して読んでやってくださいm(_ _ )m





いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。



かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。

















「…話が、ある」


「私も聞きたいことがあります」

口を開いた土方をスッと見つめ、冴も応える。


「…何だ」


「先に申し上げても宜しいのですか?」


「構わねぇ」

少しの沈黙のあと、小さく息を吸った冴は先程自身で確認した事実を伝える。


「…傷がありません。あのとき、意識が遠のくくらいの深手の傷を負ったはずなのに、傷がありません」

冴はじっと土方の瞳を見据えた。



「…どういう、こと、ですか?」

皆の視線が冴から土方へと移る。


一度目を伏せ大きく息を一つ吐いた土方。再び冴を見据える。





その時、障子戸の向こうから足音がし、声がかかった。



「近藤だ。松原君、入ってもいいかな?」


「…はい」

障子戸を開け、冴の姿を見た近藤は破顔する。


「おお、松原君。もう起き上がれるのか。まだ横たわっていてもいいんだぞ」


「…お気遣いありがとうございます」

軽く頭を下げる冴。


「君が無事ならそれでいい。…歳」


「いや、今からだ」

近藤が土方に視線を送れば、土方がそれに応える。


「そうか。ならば俺の口から伝えよう」

土方の隣にスッと正座で座る近藤。



にこやかな表情は消え、まっすぐに冴を見つめた。




「単刀直入に言おう。松原君。君は…羅刹になった」


「…」


「命令したのはこの私だ」


「…」


予感はあったものの、突きつけられた事実。


冴は静かに瞼をおろし、一つゆっくりと息を吐く。


そして瞼をもちあげ、近藤を見つめ言葉を零した。



「…何故、ですか」


「君を失いたくはなかったからだ」


「…羅刹になってでもですか」


「そうだ。今度は羅刹として、この新撰組を支えて欲しい」



部屋に訪れる沈黙。



眉根を寄せながら上手く言葉を探そうとするも中々見つけられない冴。

そんな冴に土方が口を開く。


「松原。まだ身体がだるいだろう。お前は目覚めるまで通常の倍の日数がかかった。
それだけ身体の負担は大きかったはずだ。
今後のことはまた明日にでも話す。今は横になってろ」


「…。…はい」


「じゃあ近藤さんと俺は会合があるから出かけてくる。留守の間、頼んだぞ」




皆に声をかけた土方と近藤が出て行き、静まり返る部屋。



それを切り裂くように突如動き出した冴は自身の刀が収められている場所に移動し、脇差を取り、引き抜こうとする。


沖田が冴の身体の動きを後ろから止め、
冴の前に回り込んだ斎藤が刀を抜かせまいと柄と鞘を握った。



「離してっ!!離してよっ!!!」


「離す、ものかっ!!」


「離したらどうするのさっ!!心臓を突き刺して死ぬつもりでしょ?!」

冴の訴えに斎藤と沖田も声を荒げる。


以前の冴とは違う力がそこにはあり、斎藤と沖田はその冴の力を抑えるのに表情を歪めた。


「当たり前じゃない!!!羅刹なんてっ!!羅刹なんてっ!!!」

冴の視線は山崎を捕らえる。


「山崎君、殺して!!私を殺してよ!!!」


「出来るわけがありません!!」


「いや!死にたいっ!羅刹なんて!!」

髪を振り乱しながら、二人から逃れようとしながら声を荒げる。


「総司!私前に言ったよね?約束したよね?
羅刹になるくらいなら死にたいって。殺してって!何で殺してくれないのよっ!!」

自分を抱え込む沖田の顔を見つめながら訴え、また逃れようと力の限り身体を捻る。


「冴っ!!」


「一っ!!死なせて!!殺してよ!!!」

今度は自分の前で膝立ちをし、刀を抜かせまいとする斎藤に声を荒げる。


「出来るわけがないだろう!!」

突き刺さんばかりの視線と怒りを放ちながら斎藤も声を荒げた。


「どうしてっ!!どうして皆っ!!!」


「冴!!冴!!!お願いだ、聞いてほしい!!」

顔を横に振り乱しながら暴れようとする冴に、沖田は言い聞かせるように更に力を込める。



「…っ。…どうして…」

空(くう)を見上げる冴の瞳から雫が一つ零れたのを斎藤は見た。



「…僕は一度君を殺そうとした。…でも…出来なかった。
…止めようとする皆を振り切れなかっただけじゃない。
…僕は、…僕は、君を、冴を、失いたくなかった。怖かったんだ」

一つ一つの言葉が冴にきちんと届くように言葉を選びながら、
沖田は冴の耳元で言葉を紡いでいく。


「僕は今までに数え切れないほどの人間を殺してきたのに。
…きっと冴を殺すのだって簡単なはずなのに。
僕は怖かったんだよ。君のいない世界が。
僕を呼んでくれる君の声が届かないことが」

胸の内の痛みに顔を歪める沖田。


「冴との約束を守りたかったけど、近藤さんも冴を失いたくないって言ったんだ。
…きっと皆同じ気持ちだった。…羅刹と言う存在に縋ったんだ」

徐々に冴の身体から力が抜けていくのを感じた。


「冴が目覚めたとき、僕は本当に本当に心の底から嬉しかった。
愛おしいと思う溢れる気持ちが止まらなかった。
…恨むなら、僕を恨んで?君自身が嫌う羅刹と言う存在になっても、僕は君を愛してる。
愛していることにまったく揺るぎがないんだ。
冴、君が生きていてくれて僕は嬉しい。」


「…そんなの勝手だよ」

言葉を零し、沖田の腕からもするりと崩れ落ちそうになった身体を沖田は抱きとめる。

冴の身体を反転させ、自身の腕の中に閉じ込めながら、ゆっくりとその場に座った。


「冴、わかって欲しい」

冴は身体を小刻みに震わせ、沖田の胸襟をギュッと握る。


「総…司…」

沖田を見上げる瞳からは次々と雫が零れ、冴は声をあげて泣いた。

沖田は冴をきつく抱きしめる。


そんな二人を斎藤と山崎は静かに見守っていた。






『私はもう…、人じゃない』


自分が見てきた、自分が殺した羅刹の姿が脳裏に甦る。




『私も…狂うの?』


闇の中に突き落とされたような感覚が冴を包んだ。