薄桜鬼・妄想小説【君の名を呼ぶ】第13話 | 浅葱色の空の下。

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薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。

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第1話はこちらから → 








いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。



かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。



















昼餉を済ませて、部屋に戻ってきた沖田と冴。


「さてと。これからどうするの?」

「えーと…、皆の雑用手伝おうかなって思ったり…」


「ね。君は世間知らずもいいとこなんだからさ、町に出ようよ」

「町…ですか?」

沖田の提案に眉を上げる冴。


「ほら、行くよ」

冴を横目で見やり、歩きだす。

「へ?今すぐですか?」

目を丸くする。

「そ」

「え?あ、ちょっと待って!」

玄関に向かう沖田を慌てて冴は追いかけた。






「お、総司に忠司じゃねーか」

不意に声をかけられ振り返ればそこには十番隊率いる原田の姿があった。


「巡察お疲れ様」

「お疲れ様です」

沖田に続いて、冴も声をかけ頭を下げる。



「どっか行くのか?」

「今日は非番だし、このコ世間知らずなとこあるから、ちょっと町でも行ってみようかと思って」

視線だけを冴に向ける沖田。


「そっか。そりゃいい。…忠司、昨日はよくやったな」

原田はそっと笑みを浮かべながらぽんぽんと冴の頭を撫でる。

「…ありがとう…ございます」

褒められることが複雑そうな顔で眉根を寄せた冴は少し俯いた。


「ご褒美に総司に何か買ってもらうんだな」

「わかりました!」

力強く頷いた冴に原田は笑みを零し、沖田は呆れ気味だった。



「…。さ、行くよ」

「原田さんも巡察お気をつけて」

踵を返した沖田に原田に声をかけてから追いかける冴。

「ああ、ありがとな」

原田は二人の後姿を優しく見守っていた。






店を見ているとある物が目に飛び込んできて冴は思わず声をあげた。

「あ、金平糖!」

「そ。買っていこうか。君の分も買ってあげる」

「…いいんですか?ありがとうございます!」

口元に笑みを浮かべる沖田に冴も笑顔を零した。





「あそこは…」

「ああ、色んな小物が売ってる店じゃないかな?見てみたい?」

「…はい…、少し」

少し照れくさそうに応えた冴。

興味はあったものの、こういう店を昔から敬遠していた。



「へぇ…。色んなのがあるんだ。凄いなぁ。これは…?」

「匂い袋だよ」

冴は沖田から手渡しされ、鼻に近づける。

「…あ、ほんとだ。いい香り」

口元にほんのりと笑みを浮かばせる。


「買って欲しいの?」

「いや、いい!いいです!そんなつもりじゃ…」

沖田の言葉に首をブンブンと横に振り、慌てる冴。

「遠慮しなくていいのに」

沖田は冴の様を見ながらクスリと笑う。


「今日は金平糖買っていただいただけで充分ですから」

「今日はってことはまた僕に買わせるつもり?」

「…っ!そんなことは言ってないです!はい!出ましょ、出ましょ」

クスクス笑う沖田の背中を押して店を出る。




「じゃあ、ちょっとお茶を飲んで帰ろうか。」

「…何か今日は沖田さんに甘えてばかりな気がする」

申し訳なさそうに沖田を見上げた冴。


「たまにはいいんじゃない?また明日から稽古でしごいてあげるから」

「…はい」

口角を上げる沖田に少し背筋を正して軽く頷いた。





屯所に戻ってきた二人。



皆の手伝いをすると出て行った冴が再び部屋に戻ってきた。


「あれ?もう戻ってきたの?」

畳みに寝転がっていた沖田。


「…何だか皆今日は気を遣ってくれて、口々に『休め』って」

眉根を寄せて苦笑いをする。

「何かしていたい気分なのにな…」

冴は視線を空へと向ける。


「いい天気だから昼寝でもすればいいじゃない」

身体を起こしながら冴に言葉を投げる。


「そういえば、今日土方さん出かけるって言ってたよね?ちょっと待ってて」

「…はい」

軽快に歩いていった沖田の背中を冴は訳もわからず見送った。





「ただいま」

「おかえりなさい」

縁側でボーっとしていた冴に沖田は機嫌よく声をかける。


「面白いよね~。土方さんて本当に隠すのが下手だから」

カラカラと笑う沖田。


「…何の話ですか?」

首を傾げる冴。


「これ」

「本…?」

手渡された本をパラパラと開いていく。


「読んでみる?面白いよ?」

「ありがとう…豊玉…発句集?」

表紙を見つめて開き、読み進めていく。


「へ~、句集なんですね。土方さんから借り…」

「総司ーっ!てめぇ、また俺の部屋荒らしやがったなぁあああああ!!!!!」

冴が沖田に問いかけていると、土方が廊下の端から叫びながらこちらに向かってくる。



「…?!」

「総司!お前はホントに毎回性懲りもなく…っ!!!!!」

沖田を見て眉間に皺を寄せ、説教を始めようとしたその時、冴の持つ本に目が止まった。


「おいっ!松原!!!」

「はいっ?!!!」

土方の声に思わず背筋を伸ばして声を上ずりながら返事する冴。


「読んだのか?」

冴を見下ろしながら腹に響くような声で呻く土方。

「………へ?」

「それを読んだのかって聞いてんだよ!!!」


冴と土方のやり取りに口元に三日月を作る沖田。



「いえ、まだパラパラとしか…」

「返せ!!!」

冴の手から素早く奪い取る。


「すみません。土方さんのものだったなんて知らなくて…。
その句集ってどなたが書かれたものなんですか?」

「…」

冴の問いかけに黙る土方。


その様を見た沖田が噴きだし、カラカラと笑う。


「…土方さん?」

首を傾げて土方の様子を伺うと、句集を持つ手がぷるぷると震えていた。

「…知らねぇよ!松原!今度総司が持ってきても絶対に読むな!総司っ!てめぇ覚えてろよ!!」

声を荒げ、踵を返し自室へと戻っていく。




少しの沈黙。


「…私、怒られた?」

「さあね?」

「…いや、沖田さんは怒られてましたよ?」

クスクスと笑う沖田に冴は呆れ気味に言葉を零した。






「さ。昼寝でもしようか」

「じゃあ、私またお手伝い出来ることがないか…って、わっ!!」

沖田は冴の手を取り、部屋に連れ込む。



「非番の日は休むのも仕事。今の君は明日から刀が握れるの?」

後ろ手で障子戸を閉める。

冴は自分の中にあった不安を言い当てられ、その言葉に身体が強張るのが自分でもわかった。


「ね。昼寝でもしよ?」

「…でも…」

「ほら、おいで?」

敷き布団を一組出して、寝転んだ沖田が冴に両腕を伸ばす。


「…」

恥ずかしそうに目を反らした冴はその場にすとんと座った。


「…冴」


「…名を呼ばないで下さい」

俯いて言葉を零す。


「どうして?」

「…どうしていいか、わからなくなる…って、わっ!!!」

腕を掴まれ、沖田の胸元に飛び込む形に体勢を崩した。


「…大丈夫だよ。またこうしてあげる」

「…」

抱きしめられた冴は眉根を寄せつつも、顔を紅潮させた。



それでもその腕の中を心地よく感じ、沖田の心(しん)の動く音に耳をすませる。



『…生きている…』




「沖田さんは…」

「名前」

「…。…総司は…初めて…人を斬ったのはいつ?」

眉根を寄せて沖田を見上げる。


「…さぁ…。もう随分昔のことだから覚えてないな」

どこか儚げな色を目に浮かべながら、冴の頭を優しく撫でた。


「そっか…」



「…慣れちゃうの…かな?」

「…かもね」



二人のか細い声が消えていった。









『道場へ行きたい』



翌朝、目を覚ました冴は沖田を起こさないようにそっと身を捩って布団を抜け出した。

素早く着替え、部屋を出る。



「…こんな早くから何処へ行くんだか」

障子にうつる冴の影を見ながら沖田は呟いた。




道場へ向かう途中、庭で稽古している斎藤を見つけた。


「斎藤さん!おはようございます!」


「忠司か…。おはよう。早いな」

手を止めて冴に向き合う。


「ちょっと稽古がしたくて…」

「随分と熱心だな」


「…その…あの…。刀が振れるのか不安で」

冴は眉根を寄せて、苦笑いを浮かべた。


「…そうか」


「じゃあ、忠司。これを切れ」

斎藤は後ろにあった地面に立て刺した竹に視線をうつした。


「…居合い…。いいんですか?」

「ああ」

「…じゃあ…」

きゅっと口を結び深く頷いた。



少し身体を沈ませ、目を閉じ、神経を集中させる。




「精神を集中しろ。気持ちが揺らいでいるぞ」


斜め後ろで斎藤が冴に指導する。




「…」


「深く呼吸しろ」





「…」


「神経を研ぎ澄ませ」





「…」


「斬れ!」

目をカッと見開いた刹那、抜刀と共にスパンと斬れる竹の音。




音を立てて、竹が転がる。


冴は刀を鞘に収めて深く息を吐いた。




「いい切り口だ」

「ありがとうございます。…斎藤さんのお陰です」

斎藤の言葉に安堵の笑みを浮かべる。



「斬ったのはお前だ。己の精神に打ち勝ったということ。
その刀、この壬生浪士組で存分に振るってほしい」

斎藤の目に宿る強く揺るぎない意思を見る。


「…はい!」

冴はその瞳を見つめながら力強く頷いた。

その冴の様子を見て斎藤の口元に優しい笑みが浮かぶ。



「…もうそろそろ、朝餉の準備の時間じゃないのか?」

「へ?あ!もうそんな時間ですか!急がなきゃ!!斎藤さん、ありがとうございました!」

深々と頭を下げて、慌てて勝手へと向かう。


斎藤は眩しそうに冴の背中を見つめ、くすりと笑った。






「…で。お前はそこで何をしているんだ、総司」

廊下の影にいた沖田に声をかける。


「…一君、冴に優しいんだね」

壁にもたれながら斎藤に言葉を投げる。


「…総司。その名を呼ぶのはよせ」

少し眉根を寄せて沖田を見やる。


「今は僕達二人しかいないからいいでしょ」

目を伏せて応える。


「幹部以外に聞かれては困る。気をつけろ」

「はいはい」

沖田は踵を返して自室へと戻っていった。