薄桜鬼・妄想小説【君の名を呼ぶ】第12話 | 浅葱色の空の下。

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薄桜鬼に見事にハマってしまったアラサーのブログです。
拙いですが、お話描いてます。
まだゲームはプレイしてません!色々教えてやってください。

少しずつフォレストにもお話を置いていっています。お楽しみいただければ幸いです。

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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。



かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。














『…朝…。もう日も高い…?』


冴は沖田に抱きしめられている事実に身を強張らせる。




『…ずっと…抱きしめてくれてたんだ…』

間近にある沖田の顔を見るも恥ずかしくてすぐ目を反らした。



『昼餉は今日当番じゃないけど、さすがに起きなきゃ…』



『…どうやって動けばいいんだろ…』



「あ…あの…、沖田さん…起きてください…」

「…」

か細く訴える冴に沖田が目を覚ます気配はなかった。






その時、誰かが廊下を歩いてくる音がした。


「…!!!」

焦って目を見開く冴。


「あの、沖田さん!起きて下さい!起きて下さいって!起きて!離して!見られたら…っ?!」

沖田はぎゅっと抱きしめたまま身体を反転させ、冴の場所を移動させる。


沖田が障子を背にし、冴が沖田の影に隠れた。




「おーい。総司、忠司。起きろよー。忠司、土方さんが呼んでたぞー」

声の主は藤堂だった。


「あ!ありがと!うん、もう起きてる!!」

沖田の胸元から藤堂に向けて声を投げる冴。



「…忠司?何か慌ててね?」

「ごめん、…今着替えてるからっ!」

怪訝な声になる藤堂に冴は咄嗟に嘘をついた。


「っ!!わ、わりぃ!じゃあ、伝えたからな」

冴の言葉に焦った藤堂は足早にその場を去っていった。



遠ざかる足音に胸を撫で下ろした冴。





「…嘘吐き」


冴の顔を覗き込むようにして目を細めて口角をあげる沖田。


「沖田さんが離してくれないからっ!」

途端に顔を赤らめ、沖田の胸を叩く。


「土方さんが呼んでるんで着替えます!」

「何で?」

沖田は腕から抜け出そうと身を捩る冴を更に抱きしめる。


「離してって!」

沖田の胸を突っぱねようとする冴。



「…冴」


不意に呼ばれた名前にまた身体がビクンと跳ねる。


「総司って呼んで?」

顔を見れば真剣な表情で冴を見つめる視線とぶつかる。


「…さ、最初にきちんと話さなきゃいけないって言ってたのは沖田さんで…」

眉根を寄せて、その視線から目を反らす冴。


「呼んで?」

どこか切なげな声に冴は息を飲んだ。


「…。…総…司」

冴は恥ずかしそうに少し俯きながらもその名を呼んだ。


「うん」


伝えられた自身の名に沖田は口元に笑みを浮かべながら冴を抱き寄せた。


冴は渦巻く気持ちを少しでも楽にしようと小さく息を吐いた。




「…。…っ!土方さんに怒られる!」


思い出した途端、身体をビクンと震わせ声を上げた冴。


その声に沖田は腕を緩めると冴はするりと布団から抜け出した。


「僕も行くよ」

「…なら早く用意して!!怒られるから!!!」

くすくすと笑う沖田に、衝立に隠れながら冴が焦りの声をあげた。






「土方さん、おはようございます。松原です」

「おう、入れ」

中から土方の招き入れる声。


「失礼します」


「遅かったな」

土方は筆を置き、振り返りながら松原の方を向けば後ろにいた沖田と目があう。


「…何で総司までいるんだ」

眉間に皺を寄せながら言葉を投げる。


「…僕の組のコに用があるなら、僕がいてもいいじゃないですか」

目を細めて口元に笑みを浮かべる沖田。


「…ま。かまわねぇけどよ」

土方は軽い溜め息をついた。




「松原。昨日はよく働いてくれたみてぇだな」

自分の正面に正座して座る冴を見据る。


「…私は何も」

少し俯いて首を横に振る冴。


「何人かはやったみてぇだしな」

「…」


「…松原。辛いか」

「…辛くないと言えば…嘘になります」

土方の問いかけに自身の袴をぎゅっと握る。



「今なら許してやる。家へ帰れ」

「!!」

その言葉に目を見開いて土方を見つめる冴。

本来なら脱走したものは局中法度で斬殺か捕らえられ切腹となる。


「ただし、二度は言わねぇ。この機会を逃せばお前も知ってる通り、隊規を守る」

土方の視線に背筋が凍る。


冴は自分の中で込み上げて渦巻く感情を土方に伝えようと口を開いた。


「…。確かに…人を斬る恐ろしさを昨日まざまざと思い知りました。本当に怖いものでした。
今でも思い出せば…情けないですが、震え上がります」

握った拳が微かに震える。


それでも言葉を紡ぎたく、乾く口内を潤そうとし、出ない唾を必死で飲み込む。


「でもここに来て2月が過ぎて…、この場所が…物凄く、居心地がよくて…。
思い上がりだとはわかっているのですが…。家族のような感覚にさえなります。

非力な私ですが…。この場所を…ここにいる人たちを…守りたいです。
そのためなら…私は…人斬りになります」

小さく息を吐き、土方を見つめる。


冴の背中を斜め後ろから目を細めて見つめる沖田。


「…ここに、いさせて下さい」

冴は手をついて頭を深く下げた。


「…わかった」

冴の言葉に短く息を吐いた土方。


「松原、頭を上げろ。それだけの覚悟があるなら大丈夫だろ。
余計なこと言って悪かったな。下がってくれ」

言葉を和らげて真一文字だった口元を緩める。


「…何か反論はあるか、総司」

土方は沖田に視線を向ける。


「いいえ。今の忠司くんの話、近藤さんが聞いたら泣いて喜ぶだろうなと思って」

目を伏せて口元に笑みを浮かべた。


「…そうだな」

軽く息を吐き、ふっと笑う。


「今日は二人とも非番だろ?松原はここに来て初めての非番じゃねぇか?せいぜいゆっくりしろ」

土方の言葉に冴は顔が綻んだ。


「ありがとうございます。失礼します」

再び冴は深々と頭を下げた。



廊下に出た冴は胸を撫で下ろした。


「さ、昼餉でも食べに行こうか」

背中をぽんと撫でる沖田。


「…はい」

冴は笑みを浮かべて沖田に続いた。