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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
冴が初めて巡察に出る日が来た。
初めて身につける隊服に冴は自然と更に背筋が伸びるのを感じた。
鉢金をつけた冴を見て沖田がクスリと笑う。
「耳はね、紐の中に入れ込むんだよ」
「どうしてです?」
「耳をそぎ落とされたいの?」
「…っ!…そう、ですね」
急いで整える冴を障子戸にもたれ、腕を組んだ沖田が口角を上げ見守る。
「準備はいい?」
「はい!」
刀を握り、拳を作って沖田に応える。
沖田に続いて廊下を歩く冴。
『風格あるなぁ…。背負うものが違うんだろうな、隊長は』
沖田の隊服を着た大きな背中を冴は見つめていた。
「お、忠司!」
冴を見つけ、駆け寄ってきた非番の藤堂。
「隊服似合ってんじゃん!頑張ってこいよ!」
冴に気合を入れるように背中をバシン!と叩かれる。
「わ!…うん、行ってきます」
冴は緊張した面持ちながらも藤堂に笑みを向け、歩きだした。
「じゃあ、行こうか」
沖田の声に一番組が歩みを進める。
この日は十番組との巡察だった。
巡察経路を早くもなく、遅くもない早さで連なって歩いていく。
冴の横を歩く沖田。
「…前を歩くわけではないんですね?」
「うん?その時の気分だよ。今日は特に初めて巡察に出るコがいるし?」
冴を横目で見て口角を上げ答える。
「そう…ですね」
小さく頷いて、町人達に視線を向ける。
「忠司くん、斬る時に必要ないのは?」
不意に沖田からの問いかけ。
「躊躇い(ためらい)…ですか?」
「そ。よく出来ました」
沖田は視線は行き交う人々に向けながら、満足そうに口元に笑みを浮かべた。
巡察の間、少しでもおかしい動きや輩がいないか周囲を警戒しながら、情報収集なども行う。
『何だか町人からの視線が痛い』
口を真一文字に結ぶ冴。
「おい!あれ、壬生浪士組だぞ」
「おっかないねぇ」
町人からの野次が嫌でも耳に入ってくる。
「嫌われてるんですね?」
冴は上目遣いで沖田を見上げる。
「そ。色々あったしね。これでもマシになった方じゃない?」
クスクスと笑いながら応える。
「おいおい、何だありゃ」
「あんなひょろっこい奴まで壬生浪士組なのか?終わってるな」
『…私のこと…だよね』
冴は小さく溜め息を吐いた。
「…言わせておけばいいよ。君の場合、敵がなめてかかってくることの方が多い。
その方が君にとっても好都合になるから」
「そう…ですね」
思いがけない沖田の言葉に眉をあげるも、納得し軽く頷く。
「あの…ありがとう…ございます」
自分を庇ってくれたのかと思い、礼を言う冴。
「何が?」
「…何もありません」
沖田の反応に目を逸らせて言葉を零した。
巡察を終え、屯所に向かう。
「おい、総司」
呼びかけられた方を向くと、原田を先頭とした十番組がこちらに向かっていた。
「左之さん達も終わった?」
「ああ、そっちはどうだった?」
「特に何も」
「こっちもだな」
隊は合流し、屯所へと戻る。
屯所の門を潜って冴は一つ大きな溜め息を吐いた。
「おっ!おかえり!」
「…ただいま戻りました」
駆け寄ってくる藤堂に緊張の糸を緩めながら応える冴。
「どうだったよ?巡察初日は」
藤堂に続いて歩み寄りニカっと笑う永倉。
「緊張しました」
冴は少しの苦笑いを浮かべる。
「市中はどうだった?」
「何にも。平和そのものだったよ」
永倉に淡々と応える沖田。
「忠司も頑張ったな。お疲れさん」
原田が冴の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「…ありがとうございます」
思わず笑顔が零れた冴。
「じゃあ、僕は左之さんと土方さんのところに報告に行ってくるから。解散」
それぞれが散り散りになる。
一人残った冴はまた大きく息を吐いて部屋に戻った。
『今日は夕餉の当番だったっけ』
お勝手に向かおうとした時、部屋に沖田が入ってくる。
「いたんだ」
「はい」
「じゃあ、隊服お願い」
「はい」
沖田が隊服を脱ぐのを手伝い、受け取る。
「コレ、あげるよ」
袂から包み紙を取り出した沖田。
「…何ですか?」
「金平糖」
「?」
沖田は不思議そうに首を傾げる冴にクスリと笑う。
「はい、口開けて」
沖田の言葉に小さく口を開けた冴。
沖田はその口の中に二粒の金平糖を運ぶ。
軽く触れた唇と指に少しの温もりが伝わる。
「っ!美味しい!」
目を丸くした冴は口を押さえ、笑顔が綻んだ。
「残りあげるよ」
その様子に優しげな目を向けた沖田は冴の手に包み紙を渡し、部屋を出て行く。
「ありがとうございます!」
背中越しに聞こえた冴の声に沖田はヒラヒラと手を振った。
『…反則だよね、あんな顔』
廊下を歩きながら庭から見える晴れ渡る空に視線を向けて、口元に笑みを浮かべた。
「随分と忠司を可愛がってんだな」
廊下ですれ違う際に声をかけた原田。
「…何が言いたいの?左之さん」
「気になってんのか?」
口元に笑みを浮かべながら沖田の表情を伺う。
「やだなぁ、妹みたいなもんですよ」
「…弟、ではなく、妹ね」
沖田の言葉に口角を上げて言葉を返す。
「…揚げ足取るのやめてもらえます?」
軽く眉根を寄せて、小さく息を吐いた沖田。
「ああ、悪ぃ。揚げ足取るのはお前の専売みたいなもんだもんな」
目を流しながら沖田の横を過ぎ去る。
『人のヤなとこ突いてきたなぁ』
沖田は喉でクッと笑い、歩みを進めた。