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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
「沖田さん。最初に試したいことがあるんですが」
「…いいよ?」
眉をあげる沖田。
「居合いの構え?!」
冴の構えを見て藤堂が声を上げた。
「へえ」
沖田は嬉しそうに目を細めた。
その日の冴は鞘つきの木刀を手にしていた。
静かに身を屈め、呼吸を整える。
空を切る音がし、同時に沖田が一足下がり木刀を避けた。
「…あれ?」
眉間に皺を寄せる冴。
「…いいんじゃない?」
沖田は口元にうっすらと笑みを浮かべた。
「まだまだかぁ…。じゃあ気を取り直して」
鞘を他の隊士に渡し、息を静かに吐き構える。
冴は恐れることなく沖田の間合いに飛び込んでいった。
力強く踏み込む足音。
木刀が空を切る音。
冴が突きを沖田に向けて放つ。
『これは…僕も気をひきしめてやらないとね』
沖田は冴の目を見つめながら、自身の唇を舌でなぞった。
どれくらいの時間がたっただろうか。
冴は背中がざわめいたかと思えば、凍って身動きが取れなくなるような感覚を何度も味わう。
『これが殺気…』
身をもって殺気を知り、それでも静かに自身を奮い立たせ沖田に向かっていく。
「ほら、息があがってきたよ?」
「まだまだ」
「あーあ。今の君、死んだの何回目だろうね?」
沖田の声が道場内に響く。
平隊士たちはその様を固唾を飲んで見守る。
「総司、楽しそうだな…」
「ああ…、でもさ…誰かいい加減許してやれって言ってやれよ」
ぼやいた永倉に応えながら、眉間に皺をよせて原田が言葉を続けた。
「でも忠司も倒されても食いついていくし、心底楽しそうなんだよなぁ」
見ていた藤堂が少し羨ましそうに声を上げた。
「ま、そうだな。見てても飽きないもんな」
同意した原田もうっすら笑みを浮かべつつ、沖田と冴の様子を見守る。
「おい、まだ終わらねぇのか」
所用を終えた土方が道場に入ってきて声をかけた。
「あ、土方さん。終わってもいいとは思うんだが、相手してる総司が止めなくてさ。
忠司も食いついていくし…」
永倉が溜め息まじりに言葉を吐く。
「ほう…」
土方も暫し二人を見やる。
「あの総司が真面目にやってんじゃねぇか。真面目にやらないと松原の相手は出来ないってわけか」
喉の奥でクッと笑う土方。
「…もういいだろうな。おい!総司!松原!もう仕舞いだ!」
土方の声が道場内に響き、二人は動きを止めた。
「…邪魔しないでもらえます?土方さん」
沖田は玉の汗を流しながら、木刀を肩に乗せて口元に笑みを浮かべた。
「それだけやりゃ充分だ。稽古ならまたつけてやれ」
「…はいはい」
目を伏せる沖田。
「…ありがとう…ございました。…。…あの…判定…は?」
汗を大量に流し、肩で息をしながら途切れ途切れに言葉を吐く冴。
「ん~、どうしよっか?まだまだなんだけどな」
「おいおい、合格に決まってんだろ」
口角をあげる沖田の言葉に土方の声が後ろから飛んできた。
「…だって」
冴に笑顔を向けた沖田。
「…ありがとう…ございます」
冴もその笑顔に応え、静かに礼をした。
「おい!松原、大丈夫か?!」
「大丈夫、ふらついただけ…」
「俺に掴まれ」
自分の場所に移動しようとしていた冴に平隊士たちが心配そうに集まる。
「はいはい、どいて」
背後からした沖田の声に隊士たちは道を作る。
「それくらいでふらついてどうすんの?」
「…いや、俺でもふらつくぞ。あんなの」
冴を見下ろす沖田の言葉に様子を見ていた藤堂がぼやく。
「…すみません」
「部屋戻るよ」
「はい…。へ?!」
沖田が身を沈ませたかと思いきや、冴の足を持ち、肩に担いだ。
沖田の背中に逆さ状態でいる自分に一瞬訳がわからなかった冴。
つかつかと道場を出て行こうとする沖田。
「ちょ!沖田さん!下ろして!」
「それが人に物を頼む言い方?」
「下ろしてください!」
「やだ」
「下ろしてぇ!」
多くの隊士たちが二人の様を呆気に取られ見送っていた。
部屋に着き、ようやく下ろしてもらえた冴。
「…頑張ったね」
沖田はその大きな手で冴の頭をぽんと撫でる。
「…ありがとうございます」
少し恥ずかしそうに言葉に応える。
「でもね…まだ足りないんだよ」
「何が…ですか?」
軽く眉根を寄せる沖田の顔を伺う。
「実践すればわかるよ」
口角を上げる沖田。
「着替えるでしょ?僕は水浴びてくるから」
「あ…じゃあ、これを」
冴は用意していた沖田の着替えを渡す。
「ありがと」
着替えを受け取り、口元に笑みを浮かべながら部屋を出て行った。
風呂場は混み、水浴びがすぐさま出来ない冴は井戸に向かった。
井戸の冷たい水でまず喉を潤し、手ぬぐいを濡らし硬く絞って、部屋に戻る。
いつも以上に汗を吸った重い稽古着をバサバサと脱いでいく。
『汗かいたな…』
身体を拭いている途中、廊下から声がかかった。
「松原、いるか?入るぞ」
「へ?斎藤さん?!待って!!…えっと…、着替えてます…!」
とりあえず稽古着をかき集めて、身体を隠そうと必死になる。
「…っ!…すまない。…このままで構わない。そのまま聞いてくれ」
「…はい、すみません」
珍しく慌てふためく斎藤の声に、冴は障子に写る斎藤の影を見た。
「今日の稽古の最初に出した抜刀。総司は何も言わなかったが…いい型だった」
「本当?!ありがとう!!…あ、ありがとうございます」
斎藤の言葉に一気に嬉しさがこみ上げ、かき集めていた稽古着をぎゅっと抱きしめる。
「でもまだまだ斎藤さんには敵わないから…。また稽古つけてくれますか?」
「…ああ、構わない」
冴の言葉に斎藤の口元に笑みが浮かぶ。
「良かった」
嬉しさを噛み締めながら言葉を零した。
「…一君。何、忠司くんの着替え覗こうとしてんの?」
腕組みをして口元にうっすらと笑みを浮かべながら楽しげに近づいてくる沖田。
「ち、違う!俺は松原と障子越しに話をしていただけで…」
「中に入ればいいじゃない?」
慌てる斎藤を笑いながら障子戸に手をかけた。
「おい、総司!」
斎藤の制止も聞かずにスパンと障子戸を開ける沖田。
目の前にはもぬけの殻になった部屋があった。
「ね。いないでしょ?素早いんだよね、忠司君」
沖田は斎藤に笑いかけた。
「いきなり入ってこないでってあれほど言ったのに!!!」
衝立の向こうから冴が声を上げる。
「いいじゃない。減るもんじゃないんだし?」
沖田は楽しげにクスクスと笑う。
「あれ?一君、行っちゃうの?」
「用件は伝えた」
「ふーん」
うっすらとした笑みを浮かべて斎藤の背中を見送った。
「一君、何て?」
後ろ手で障子戸を閉めながら冴に言葉を投げる。
「ああ、最初の抜刀を褒めていただけました」
「へぇ…」
嬉しそうな冴の声と斎藤の言動に眉を上げた。
「あの…申し訳ないんですけど、少し出て行ってもらえないですか?」
「ここ、僕の部屋なんだけど?」
「…お願いしますっ!」
衝立の向こうから泣きそうな声で冴が訴える。
「はいはい。縁側にいるから着替えたら呼んで?」
沖田はクスクス笑いながら部屋を出て行った。