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いつものようにキャラ崩壊、設定無視などございます。
かなりのお目汚しとなりますが、それでも宜しければ。
入隊したばかりの平隊士たちがまだ巡察に出ることはない。
稽古に明け暮れ、合間に時代情勢などを学び、食事の用意、雑用、
毎日が目まぐるしく過ぎていく。
沖田と部屋を共にしている冴も沖田の眠った後で眠り、沖田が起きる前に起床し雑用をこなしていく。
薪割りなど筋力がつきそうな雑用は進んでやった。
横になると睡魔が眠りへと簡単に誘うので、冴には沖田を男として見る余裕すらなかった。
それでも冴は独りで生活していたころと比べて、毎日が充実し気分は晴れやかだった。
「松原くん!」
「近藤さん!おはようございます!」
声をかけてくれた近藤に嬉しそうに駆け寄る冴。
「ああ、おはよう!毎日頑張ってくれているみたいだな。
この前は稽古で永倉くんも唸らせたらしいじゃないか。結構結構!」
「そんなことは…ついていくのが精一杯です」
近藤の言葉に恥ずかしそうに首を振る。
「今日は俺も稽古に出る。しっかり見せてもらおう!」
「はい!よろしくお願いします!」
冴は力強く応え、頭を下げた。
冴は稽古が楽しみでならなかった。
幹部たちの立ち振る舞いに見惚れることもしばしば。
稽古をつけてもらうのも、相手に立ち向かっていくのも気分の高揚が気持ちよかった。
「忠司くん」
稽古も終わり、隊士たちも少なくなった道場で沖田が声をかけた。
「はい、なんですか?」
「君、まだ大丈夫だよね?稽古、つけてあげる」
「!ありがとうございます!」
冴の表情がさらにぱっと明るくなる。
「一君、君の隣の部屋ってまだ空いてる?」
まだ道場に残っていた斎藤に声をかける沖田。
「…空いているが。何に使う気だ?」
「ちょっと忠司くんに教えてあげるだけだよ。ついておいで」
横目で斎藤に視線を送りながら、冴に声をかける。
「僕達の戦う場所って外だけじゃないんだ。御用改めだって入ることがしばしばだよ」
沖田は廊下を前を向いて歩きながら言葉だけを冴に投げる。
「はい…」
空室の襖をあけ、「入っておいで」と促す沖田。
「室内を荒らすと土方さんがうるさいからね。ゆっくり…かかっておいで?」
「はい」
うっすらとした笑みを浮かべる沖田に小さく頷いた冴。
ゆっくりと振り下ろしていく木刀。
それを合わせて。
カツカツと木刀を鳴らせながら。
軽く踏み込む音と共に畳が擦れる音。
次第に冴は眉根を寄せることが多くなる。
沖田はスッと木刀を下ろす。
「わかってきた?君の剣術は外なら最大限活かせる。でもこんな狭い室内だとただの無駄な動きとなってしまう。
僕達に突きの型が多いのはそういう理由なんだ。だからこれからは突きにも重点を置いて稽古してごらん?」
「…ありがとうございます。…何だか目からウロコな気分…。」
驚きの表情を浮かべながら小さく息を吐いた冴。
「でも理にかなってるでしょ?」
「はい!」
沖田の言葉に笑顔で応える。
「じゃあ、道場へ戻ろうか」
「…はい!」
道場へ戻るため、再び廊下を歩く二人。
「…ねぇ。サボりたいとか思わないの?」
「今は楽しくて」
冴はこみ上げてくる喜びを噛み締めるように言葉を返す。
「そ。僕も鍛え甲斐があって楽しいよ。
…あ、そうだ。昨日いびきかいてたよ?うるさくて中々眠れなかったんだよね」
流し目で冴を見やる沖田。
「…へ?!」
冴は目を丸くさせて立ち止まり、みるみると顔を赤らめる。
「… … …すみません」
「冗談」
「へ?」
「だから冗談」
少し歩みを進めた沖田が冴に振り返りながらくすくすと笑う。
「…斬っていいですか?」
「斬れるもんならね?」
睨みつける冴に踵を返して手をヒラヒラとさせ道場に向かった。
その日の冴は隊士たちの洗濯物を洗っていた。
『ふぅ…。今日の洗濯物はこれで終わり』
干した洗濯物を見て小さく息を吐く。
そこに先輩である隊士が声をかけてきた。
「松原!洗濯終わったか?」
「はい、終わりました!」
笑顔で応える冴。
「ご苦労だったな。ま、ここ座ろうぜ」
強引に腕を引かれ、物陰にあった長椅子に促される。
「…お前さ…。頑張ってるよな」
「いえ、そんなことは…」
冴は小さく首を振る。
「剣術は凄いと思うけど、か細いし…女みてぇな綺麗な顔してるな」
「…そ、そうですかね?」
身体を寄せてくる隊士にたじろぐ冴。
「もう沖田さんには抱かれたのか?」
「へ?」
隊士の言葉に目を丸くする。隊士は冴の両手首を掴み、逃れようとする身体を引き寄せていく。
「お前は男色もいけるのかって聞いてるんだよ」
「…え…と…」
近づいてくる顔に顔を反らしながら抵抗するも力では敵わない。
「俺にも抱かせろよ、減るもんじゃねぇ」
「…っ!」
冴は目をぎゅっと瞑り、身を強張らせた。
「…っつ!!!」
途端、隊士の力が不意に弱まった。
冴はうっすら目を開くと後ろから隊士の頬には真剣がぴたりと添わせている。
隊士の顔越しに沖田の姿が見えた。
「何、しているのかな?」
上から見下ろす隊士に向けられる視線には冷酷な感情が宿っていることが冴にもはっきりわかった。
冴の背中にも冷たいものが瞬時に走る。
「いや、俺は何もっ!その…!かっ、顔にゴミがついていて、取ってやろうかと…」
頬に刀を寄せられたまま、必死に言い訳をする隊士はみるみると青ざめていく。
「…僕には何もついてないように見えるけど」
「…」
沖田の言葉に息を飲んだ隊士。
額からは汗が一筋流れた。
「忠司くんは僕の小姓だから、何か用があれば僕に聞いて欲しいなぁ。
今みたいに変な真似されたら、今度は有無を言わさずに斬っちゃうけど」
沖田は刀を隊士の頬から離し、鞘に収める。
「…すみませんでしたっ!」
隊士は頭を深々と下げ、慌てて走り去っていく。
冴は静かに胸を撫で下ろした。
「ありがとう、ございました…」
「…あんな奴もいるからさ、もっと気をつけた方がいいよ。ま、君がどうこうされようが僕には関係ないけどね」
冴を見下ろしていた沖田はゆっくりと顔を覗き込む。
「…何ですか?」
「…」
「…な、何?!」
何も応えず顔を近づけてくる沖田に冴は少し後ろに身じろいだ。
「…本当に顔にゴミがついてないか確認してただけ。ついてないね」
クスリと笑った沖田に顔が紅潮するのを覚えた冴。
「ほら、行くよ」
歩き出した沖田が口元に笑みを浮かべながら冴を促した。