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mi-column(ミコラム) ~時事ニュースから社会を読み解く~

法律事務所職員(福祉系NPO法人担当)が
話題の時事ニュース(主に法律・社会・福祉関係)を中心に、
実(み)のあるコラム記事を発信します!(^▽^)/


 さて、ここで、今回の食材偽装問題に視点を戻してみることにします。
 今回発覚した食材偽装の多くには、共通する特徴が大きく分けて二つ挙げられます。


ⅰ明確な法的基準の不存在


 まず注目すべきは、今回の食材偽装は、流通過程(小売りや卸売り)において生じた表示偽造ではなく、「食材を料理して提供する」というサービスの過程において生じた表示偽装であるという点です。分かりやすく言い換えるならば、今回の偽装は飲食業界における「メニュー表示」の偽装です。

 前述してきた「食品表示制度」は、食品の多くが生産者・製造者の手を離れてから消費者の手元に届くまでに、多様な流通過程を経ることになるため、そうした過程を経ても正確な情報が消費者に伝達されるようにすることを目的としています。小売りや卸売りの段階で食品表示が徹底されれば、飲食店に食品が渡ったときには、その店舗に食品の情報がきちんと届いていることになり、これによって食品表示制度の目的は達成されたことになります。消費者はその場にいるサービス提供者に聞くことで、いつでも食品についての情報を得ることができるため、これをもって「食の安全」は保たれていると考えられてきたからです。そのため、メニュー表示については、今まで食品表示制度の問題とされていませんでした。
 すなわち、現状の制度下においては、飲食店のメニューについて表示義務というものは存在しません。飲食店の中には、“メニューのないレストラン”というのも存在しますが、それももちろん違法にはならないのです。


 しかし、だからといってメニュー表示に適用される規制が全くないというわけではありません。「景品表示法」によって消費者に不当な表示をしたり優良誤認をさせるような表示をすることは禁止されており、飲食店のメニュー表示もこの対象となるからです。つまり、メニュー表示をしない分には何の罪にもなりませんが、メニュー表示をする以上は、そこに嘘があったり、実際よりも良いものと勘違いさせるような表示をすることは許されないのです。
 では、どんな表記をすると不当な表示や優良誤認をさせる表示と判断されるのでしょうか。たとえば、ブランド食品でないものを「国産有名ブランド牛」などと思われるように偽装表示した場合や、機械打ちの麺を「手打ち」と表示した場合、添加物を使用した食品に「無添加」と表示をした場合などは、全て景品表示法違反となるおそれがあります。ただし、「一般消費者に対し実際のものよりも“著しく”優良であると誤認させたかどうか」の判断は、個々の事例によってその都度判断がされることとなっており、そこにはJAS法の規定のような、どのような場合にも共通する明確な基準があるわけではありません。また、その違反が“著しい”場合に初めて行政処分の対象になるという監視体制になっていたため、取り締まられる側にとっては最低限守らなければならない法的基準というものが必ずしも明確ではなかったのです。(消費者庁は優良誤認等とされる表示についての事例を公表していましたが、それに対する一般認知度も高いものとはいえませんでした。)

 

 このように、今回の食材偽装問題の第一の特徴としては、「明確な法的基準が不存在であった」という点を挙げることができるでしょう。


 (捕捉:なお、今回の問題を受け、早急な対処法として景品表示法の内容周知や罰則強化などが検討されており、また、2015年施行予定の「新食品表示法(JAS法・食品衛生法・健康増進法を一元化した法律)」では適用範囲を外食にまで拡大することが検討されています。今後は、メニュ―表記に対する法や行政の監視体制が強化されていくものと思われます。)



 →次回:被害者の観点から、もう一つの特徴を捉えます。





 食を取り巻く問題を考えるうえで、最も重要となるのは「食の安全」です。今回の一連の食材偽装問題は、「食の安全」と直接関係するわけではありませんが、食の現状を捉えるために、まずは「食の安全」について理解を深めるところから始めることとします。

 

 「食の安全」が保持されることは、日常生活を送るすべての人々にとって非常に身近で重要な事項です。その「食の安全」を脅かす中心的存在が、食品偽装です。

 食品偽装とは、「食料品の小売り・卸売り・飲食店での商品提供において、生産地、原材料、消費・賞味期限、食用の適否などについて、本来とは異なった表示を行なった状態で、流通・市販がなされること」です。その多くは、不正な方法で利益を上げようとしたり、経費削減をしようとしたりする、経営上の動機によって引き起こされています。
 悪質であったり、国民の生命・身体に影響を与えかねなかったりする食品偽装については、たびたび報道でも取り上げられ、時には警察に(景品表示法違反・刑法詐欺罪などで)検挙され、処罰を受ける事件となることもあります。しかし、余程のことが無い限りは、食品偽装はそこまで大きな問題にはなりません。日常生活に潜む食品偽造のほとんどは、行政による指導等(行政処分)によって日々厳格に監視されているからです。

 例えば、消費者庁・農林水産省によると、「平成24年度下半期(10月~3月)JAS法品質表示基準に係る国による指導件数」は全国で235件であり、その指導の内容としては、生鮮食品(特に野菜や牛肉)の原産地の誤表記・欠落や、加工食品の原材料名の誤表示・欠落が多くを占めています。ここでいう指導とは、その誤表示・欠落等が「常習性がなく過失による一時的なもの」と判断された場合で、「表示の是正」と「消費者への速やかな情報提供」が行われた場合の処分のことをいいます。(これらに当てはまらない場合には、さらに重い、指示・公表が行われます。平成24年度下半期の指示件数は10件でした。)こうした数字からも、食品偽装に繋がるおそれのある行為が日々どこかで行われているということを実感することができるでしょう。
 

 こうした監視体制を運用するにあたって基準となっているものが「食品表示制度」です。この制度は、実に多くの法律が関わりあって成り立っています。

 例えば、品質を識別し食品を選ぶ際の判断材料となる表示は「JAS法(加工食品の原材料名・原産国など)」、衛生上の危害や事故を防止するための表示は「食品衛生法(添加物・アレルギー対象物質・保存方法など)」、健康増進を推進するための栄養成分等の表示は「健康増進法(栄養成分の量・熱量など)」というように、様々な法律によってそれぞれの食品に表示しなければならない項目が細かく定められています。

 スーパーなどに陳列されている食品のパッケージをじっくり見てみると、そこには小さな文字で様々な情報が記されていることが確認できますが、それはこの「食品表示制度」が生産者・製造者や流通業者にしっかりと浸透していることを示しています。この「食品表示制度」の意義について、普段はあまり深く考えたことがないという方も多いことかと思いますが、これは、長い年月をかけて日本の食の安全を守ってきた大切なシステムです。
 例えば、食品表示制度の代表核ともいえる法律の一つにJAS法がありますが、この法律が制定された昭和25年当時は、戦後の混乱による物資不足や模造食品の横行によって各地で健康被害が頻発していました。この状況を改善すべく、農林物資の品質改善や取引の公正化を目的として、まずは「JAS規格制度」が発足し、また昭和45年には消費者が商品を購入する際に役立つようにJAS規格のある品目の表示基準が定められました。平成11年には消費者に販売される全食品への表示が義務づけられ、平成21年には相次ぐ食品の産地偽装に対処するための直罰規定が創設されました。さらに平成23年には違反があった業者は社告・ウェブサイト・店舗掲示で違反の内容を公表することが義務となり、年々その監視体制の強化が進んでいます。その他の「食品表示制度」に関わる法律も同様に、社会の要請に合わせながら、戦後から現在までの日本の食の安全を守る役割を担ってきました。

 

 日本は、高温多湿であるにも関わらず、食の健康被害の発生が他国と比べ低く、「食の安全」が高水準で保たれている国であるといわれていますが、それは、この食品表示制度が徹底されてきたことの成果といっても過言ではないでしょう。



 →次回:今回の食材偽装を法的側面から捉えてみます。



 10月下旬から11月半ばにかけて、有名ホテル・百貨店等の食材偽装が、連日のように報道で取り上げられました。

 この一連の騒動は、阪急阪神ホテルズが「提供している料理の食材表記に誤りがあった」と発表したことにつき、マスコミが大きく取り上げたことが発端でした。その報道を受け、各地のホテル・百貨店・飲食店においても同様の食材偽装があることが次々に発覚し、それはみるみるうちに全国的な広がりをみせ、遂には飲食業界全体が問題となるところにまで話が拡大していきました。

 日本中の人々の関心を強く惹きつけた一方で、行政・業界の対応は過剰に感じられる部分も多く、一般消費者の立場からすると「そもそも、一体何がどのように問題であったのか、今ひとつ分からない」という思いを抱いた方も少なくなかったのではないかと思います。特にマスコミの反応を見ていると、様々な論点を無分別に報じていることが多く、本質を見失っている傾向があるようにも感じられました。

 ここ最近になってこの話題も一定の落ち着きを取り戻してきましたので、ようやくこの問題を冷静に捉えることができるようになってきたといえるでしょう。そこで、食を取り巻く現状を深く分析し、この食材偽装、そして日本のサービスの根底にある問題とは一体何であったのか、じっくり探ってみたいと思います。


 

 →次回:日々の食の安全を守る「食品表示制度」について考察します。