食を取り巻く問題を考えるうえで、最も重要となるのは「食の安全」です。今回の一連の食材偽装問題は、「食の安全」と直接関係するわけではありませんが、食の現状を捉えるために、まずは「食の安全」について理解を深めるところから始めることとします。
「食の安全」が保持されることは、日常生活を送るすべての人々にとって非常に身近で重要な事項です。その「食の安全」を脅かす中心的存在が、食品偽装です。
食品偽装とは、「食料品の小売り・卸売り・飲食店での商品提供において、生産地、原材料、消費・賞味期限、食用の適否などについて、本来とは異なった表示を行なった状態で、流通・市販がなされること」です。その多くは、不正な方法で利益を上げようとしたり、経費削減をしようとしたりする、経営上の動機によって引き起こされています。
悪質であったり、国民の生命・身体に影響を与えかねなかったりする食品偽装については、たびたび報道でも取り上げられ、時には警察に(景品表示法違反・刑法詐欺罪などで)検挙され、処罰を受ける事件となることもあります。しかし、余程のことが無い限りは、食品偽装はそこまで大きな問題にはなりません。日常生活に潜む食品偽造のほとんどは、行政による指導等(行政処分)によって日々厳格に監視されているからです。
例えば、消費者庁・農林水産省によると、「平成24年度下半期(10月~3月)JAS法品質表示基準に係る国による指導件数」は全国で235件であり、その指導の内容としては、生鮮食品(特に野菜や牛肉)の原産地の誤表記・欠落や、加工食品の原材料名の誤表示・欠落が多くを占めています。ここでいう指導とは、その誤表示・欠落等が「常習性がなく過失による一時的なもの」と判断された場合で、「表示の是正」と「消費者への速やかな情報提供」が行われた場合の処分のことをいいます。(これらに当てはまらない場合には、さらに重い、指示・公表が行われます。平成24年度下半期の指示件数は10件でした。)こうした数字からも、食品偽装に繋がるおそれのある行為が日々どこかで行われているということを実感することができるでしょう。
こうした監視体制を運用するにあたって基準となっているものが「食品表示制度」です。この制度は、実に多くの法律が関わりあって成り立っています。
例えば、品質を識別し食品を選ぶ際の判断材料となる表示は「JAS法(加工食品の原材料名・原産国など)」、衛生上の危害や事故を防止するための表示は「食品衛生法(添加物・アレルギー対象物質・保存方法など)」、健康増進を推進するための栄養成分等の表示は「健康増進法(栄養成分の量・熱量など)」というように、様々な法律によってそれぞれの食品に表示しなければならない項目が細かく定められています。
スーパーなどに陳列されている食品のパッケージをじっくり見てみると、そこには小さな文字で様々な情報が記されていることが確認できますが、それはこの「食品表示制度」が生産者・製造者や流通業者にしっかりと浸透していることを示しています。この「食品表示制度」の意義について、普段はあまり深く考えたことがないという方も多いことかと思いますが、これは、長い年月をかけて日本の食の安全を守ってきた大切なシステムです。
例えば、食品表示制度の代表核ともいえる法律の一つにJAS法がありますが、この法律が制定された昭和25年当時は、戦後の混乱による物資不足や模造食品の横行によって各地で健康被害が頻発していました。この状況を改善すべく、農林物資の品質改善や取引の公正化を目的として、まずは「JAS規格制度」が発足し、また昭和45年には消費者が商品を購入する際に役立つようにJAS規格のある品目の表示基準が定められました。平成11年には消費者に販売される全食品への表示が義務づけられ、平成21年には相次ぐ食品の産地偽装に対処するための直罰規定が創設されました。さらに平成23年には違反があった業者は社告・ウェブサイト・店舗掲示で違反の内容を公表することが義務となり、年々その監視体制の強化が進んでいます。その他の「食品表示制度」に関わる法律も同様に、社会の要請に合わせながら、戦後から現在までの日本の食の安全を守る役割を担ってきました。
日本は、高温多湿であるにも関わらず、食の健康被害の発生が他国と比べ低く、「食の安全」が高水準で保たれている国であるといわれていますが、それは、この食品表示制度が徹底されてきたことの成果といっても過言ではないでしょう。
→次回:今回の食材偽装を法的側面から捉えてみます。