「おばさん、いっちゃんいますか?」
裏口から入ると店内にいるおばさんに声をかけた。
「さっき帰ってきて、部屋にいるとわよー。行ってみたら?」
「じゃあ、お邪魔しますー」
2階への階段をのぼりながら、走ってきて乱れた息を整える。
いっちゃんの部屋のドアの前に立つと、大きく深呼吸を一回。
「よしっ」
ノックをしようとした瞬間、ドアが開いて、力いっぱい腕をつかまれ、部屋に引き入れられた。
予期していなかった私は体勢をくずして、そのままいっちゃんの胸に飛び込んでしまった。
「痛っい」
鼻が押しつぶされて、思わず声を出す。
「ぷっ」
頭の上でいっちゃんの笑い声が響く。
「いっちゃん、ひどいよ・・・」
「ごめんごめん。低い鼻がますます低くなって・・」
くくくっと笑いをこらえて、赤くなった私の鼻をきゅっとつまむ。
「ひろい・・・」
「ひどいのはどっちだ。ハルとの二人三脚にうかれやがって」
さらに鼻を強くつまんで持ち上げる。
「らって・・・」
「そんなにハルとくっつくのがうれしいのかよ」
「そうらないって・・・」
まだ一度も二人三脚なんて経験したことがない。
だから、具体的なイメージがわかず、足を縛って歩くということくらいというぼんやりとしたイメージ。
よくよく想像したら、確かにくっつかないと走れない。
「お前は大玉ころがしに出てればいいんだよ」
「へ・・?」
「一緒に転がってれば」
やっと鼻を放してくれたかと思うと、いつもの意地悪に笑ういっちゃん。
その顔を見て、ほっとした。