一瞬だけ。
ほんの一瞬だけ。
でも、はっきりとわかった。
それが@@の唇だって。
「ご・ごめん」
唇を押えてびっくりした顔をしている@@に俺は頭を下げた。
一瞬、何が起きたかわからないようだったが、すぐに唇が触れたことを理解したように顔が赤くなる。
「ごめん・・。ホントにごめん」
***「う・ううん。ハル君のせいじゃないよ」
首を左右に振って泣きそうに笑う@@に俺の胸が痛んだ。
@@は何かに気が付いたように顔を上げると、少し先の校舎に目をやった。
そして、さらに泣きそうな表情を見せる。
視線の先が気になって、俺は@@の視線を追った。
校舎の教室にはこちらをじっと見つめる一護の姿が。
一護に見られていた。
それを知った@@の顔は真っ青で、今にも泣きだしそうだ。
一護じゃないと、笑顔にならない・・・。
わかっていた。
わかっていたけど。
俺じゃ笑顔にできない・・・。
そんな現実を突き付けられたような気がして、目の前が真っ暗になった。
放送「借り物競争に出る方は集まってください」
***「私、借り物・・・出るんだ・・・」
こんな状態で競技なんかできるのか・・・。
それほど顔色が悪い。
女子「あー。いたいた。@@さん!次、借り物だよ」
同じクラスの女子が@@を見つけると腕を引っ張り連れて行ってしまう。
「@@。・・大丈夫?」
***「・・・大丈夫だよ」
全然大丈夫そうじゃない・・・。
小さくなる後ろ姿が視界から消えると、俺はうなだれるように頭を抱えた。
「・・・はぁ」
泣き出しそうな@@の顔を思い出すと、思わずため息が漏れた。
一瞬触れた唇の感触を思い出し、自分の唇を触った。
「・・・やわらかかった・・・」
剛史「ハル・・・。どうした?」
いつの間にか隣に立って、俺の頭を叩く剛史。
「おわっ・・。剛史・・・。いつの間に」
自分がいっぱいいっぱいで気配を全く感じなかった。
剛史「@@が借り物でるのにいないって、クラスのやつが探して来いって」
キョロキョロとあたりを探す剛史に
「・・ああ。@@なら、クラスの女子に呼ばれて借り物競争に行ったよ」
@@が消えて行ったほうを指さす。
剛史「じゃあ、もういいな。ハルはいいのか?」
「え・・・?」
剛史「仕事・・。実行委員の仕事があるんじゃないのか?」
自分の頭の中からすっかり抜け落ちていたことを指摘されて、俺はハッとして立ち上がった。
「そうだ。仕事があったんだ!」
剛史「ハルが珍しいな。何かあったのか?」
剛史は時々鋭い。
「・・・何にもないよ?」
平静を装って笑うが、ひきつっているのが俺にもわかる。
剛史「そうか・・・」
あえて深く聞いてこないところが剛史の優しさだろう。
「じゃあ、仕事に行ってくる」
体育祭本部のテントに向かって足を進めた。