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<提供:日刊SPA!>
3月27日に格安を売りにしていた旅行会社「てるみくらぶ」が東京地裁に破産を申請し、破産手続きの開始決定がなされた。……
◆てるみくらぶは「良い借金」ができなかった
「ここで”良い借金”を起こせていたら、事業が継続した可能性もあった」と解説するのは、企業の再生を手がけるファンド会社日本創生投資で代表取締役社長を勤める三戸政和氏だ。……
10年ほど前の2008年には、不動産会社アーバンコーポレーションが616億円もの経常利益を上げていたのにも関わらず、不動産不況や全国銀行協会による暴力団排除条項などによる銀行からの借入が上手くできなくなり民事再生に至り、日本最大の黒字倒産と言われた。つまりは、会社というのは、売上や利益水準が良くても資金繰りが詰まれば倒産し、逆に赤字が続いていても、資金繰りが続けば倒産はしない。重要なのは、資金をつなぐための借入金。この借入金に「良い借金と悪い借金がある」というのが三戸氏の考えだ。……
◆借金(資金調達)には2種類ある
…… そもそも借金が良いか悪いかについては、「どちらとも言えない」というのが私の答えです。……
まず、借金には融資と出資の二種類があります。
融資とは、会社とは関係のない他人からの資金提供(他人資本)であり、返さなくてはいけないものです。いわゆる銀行からの借入がこれにあたります。これは、過去の業績などが重視され、担保や個人保証が要求されやすく、利息を取られる性質のものです。
いっぽう、出資は、会社と関係のある自己資金(自己資本)であり、基本的に、返さなくて良いもの。ですが将来の事業計画などが重視され、経営権(株式)を渡さなくてはいけなく、配当を要求される性質のものです。……
この資金調達の割合で1つ、良い借金と悪い借金を見分けることができます。当然、「出資」である自己資本が多いほうが倒産の確率が低く、良い借金をしているということになります。その見分け方ですが、業種業態などにも左右されますが、50%以上かどうかが健全な資金調達を行っている基準と言えます。
▶︎良い借金「自己資本50%以上」
▶︎悪い借金「自己資本50%以下」
◆トヨタの自己資本比率が少ない理由
自己資本50%以下で、さらに悪い状況に置かれるのが、債務超過状態です。
これは例えば、融資の合計が10億円あるのにも関わらず、資産が8億円しかない(出資された金額を全て使い切って出資額がマイナスの状態になっている)ことを指します。この場合、銀行などは、資金を貸し付けても返済の可能性が非常に乏しいと考えますから、形式基準として融資を行わないのが普通です。結果、会社側はこれを回避するために、資産を大きく見せるようになり粉飾決算が行われてしまうわけです。
▶︎良い借金「債務超過なし」
▶︎悪い借金「債務超過あり」
基本的には、自己資本比率が50%を超えたほうが優良な企業と言われています。
ですが、たとえば日本を代表するトヨタ自動車の自己資本比率は、38.1%です。これは、本業の自動車事業では、融資が少ないものの、金融事業(トヨタファイナンスなどのリース事業など)を銀行などからの融資に頼っていることが理由です。しかし、トヨタはこの金融事業で営業利益を約3400億円も上げているんですね。借金が多いことが必ずしも悪いということではないという好例と言えるでしょう。
◆借金はあるほうがよい(限度を超えなければ)
そもそも他人資本に頼ることは良いことなのでしょうか?
自己資本が少なく他人資本に頼ることは、融資が継続しない、返済が滞るというリスクが高まる一方で、うまく利益を上げることができれば、大きく利益を生むことができます。
この発想で日本で一番勝負を掛けているのが、ソフトバンクグループです。ソフトバンクグループの自己資本比率は12.6%。同業のNTTドコモが73.5%ですから、全く次元が違います。
自己資本比率が高いということは安全運転を行なっているともいえますが、同時に、会社として勝負をしていないとも言えるでしょう。これが両社の社風の違いに表れているというのは想像に難くありません。
◆ソフトバンクとドコモは何が違ったのか
実際に、2006年にソフトバンクがボーダフォンを買収したころ、孫正義社長が絶対的王者のドコモを抜くと決算発表で言っていた時は、メディアも含めてほどんどの人が夢物語だと言っていました。
しかし、今のソフトバンクは売上高9.2兆円、営業利益1兆円の会社にまで成長しました。これは、ドコモの売上高4.5兆円の営業利益0.8兆円を大きく凌いでいます。孫社長があらゆるところから資金を調達し、その資金を事業につぎ込んできた結果と言えます。
◆中小企業はいくらまで借金してもよいのか
とは言え、ソフトバンクは上場企業であり、借入金以外にも多角的に調達の手段があることから、中小企業の勝負ができる”良い借金”とは少し数値感覚が異なります。そこで、日本の中小企業の”良い借金”の基準を考えてみます。
中小企業の「良い借金」の限度額は、月商の4ヶ月以下が一つの目安です。日本の中小企業の全国平均(製造業)の月商が3700万円。この4ヶ月分と考えると1.5億円程度の借入となります。
全国平均の税引後利益が800万円で、減価償却が1300万円なので、借入金の返済余力が年間2100万円程度と想定され、7年もかからない程度で返済ができれば、「安全」という計算ですね。
▶︎良い借金「借入月商4ヶ月以下」
▶︎悪い借金「借入月商4ヶ月以上」
…… 昨今の低金利時代において、会社の借入全体に対して利息を年利で2.5%以上支払っている先は、金融機関への交渉を行うべきです。
…… ここ数年は、アベノミクスのマイナス金利の影響も受けて、金融機関はタダでも貸したい状況にあります。1%を切る貸出金利も当たり前の状況であることから、通常の金融機関からの借入を借り換えすれば、2.5%以下にならなければ借入余力がない、つまり何か問題があるということです。
▶︎良い借金「平均利息2.5%以下」
▶︎悪い借金「平均利息2.5%以上」
◆借入金にも”質”がある
…… 金融機関の貸出は、大きく「資産」と「事業性」を見て行われます。
古くから日本の金融機関は、資産を評価して貸し出す不動産担保付き融資の形がほとんどでした。しかし昨今、金融庁より、事業性を評価して貸し出すという指導も進んでおり、事業内容を見て将来的に利息の支払いや返済が可能なのかを見極める貸し出しも増えてきています。
借り手としても当然、事業収益を見合いにした借入は「良い借入」と言え、事業収益ではなく不動産担保や個人保証をベースとした借入は、「悪い借金」に近いと言えるでしょう。
◆SHARPはどんな借金をしてしまったのか
この事業性評価を読み誤って返済ができずに、身売りを余儀なくされてしまったのが、昨年台湾企業鴻海精密工業に買収されたSHARPです。
SHARPの歯車が上手く噛み合わなくなってきたのは、2009年稼働の堺工場に4000億円もの投資を行なったからと言われています。実際、2004年には4000億円ほどしかなかった有利子負債が、2009年には、倍の8000億円になり、2012年には1兆円を超えてしまいました。
一方、返済余力である当期純利益+減価償却費は、2500億円(2004年)→1000億円(2009)→100億円(2012年)と返す見込みのない借入が膨らんで言った結果、鴻海精密工業からの資金援助がないと立ち行かなくなってしまったのです。
つまり、事業収益を上げるはずであった堺工場が、液晶テレビの単価下落など市場の変化を大きく受け、事業収益を上げられなくなり、これを見合いに調達した借入を返済することができなくなったのです。
◆社長の自宅を担保に借りた借金はアリなのか
…… 中小企業に当てて考えると、個人保証や不動産担保(特に個人の自宅など)を見合いに借入を行うことがそれに該当します。……
3年前に「経営者保証に関するガイドライン」というものが中小企業庁と金融庁主導で発表されました。中小企業の経営者が金融機関に差し入れている個人保証を締結する際、ガイドラインを定めようというものです。
個人保証のせいで、社長の人生そのものがトラブルになることを防ごうというわけです。というわけで、「よい借金」と「悪い借金」を分類すると以下のようになります。
▶︎良い借金「事業収益見合いの借入」
▶︎悪い借金「事業収益見合ではない借入」
▶︎良い借金「保証・担保が入っていない借入」
▶︎悪い借金「保証・担保が入っている借入」
◆「借りやすい借金」は危険。個人から金を借りてる会社は一番ヤバい
……このガイドラインによって、社長は会社の借金を支払うために人生をかける必要がなくなったので、積極的に他人資本を活用して事業展開を図れるようになったと言えます。
一方で、このガイドラインに乗らない借入が一番悪い借金となります。
それが、個人からの借入です。金融機関などの法人(プロ)からの調達は、合理的な判断で調達できるので、調達に時間はかかりますが、返済できない時に合理的に判断されます。他方、個人(素人)からの調達は、非合理的(個人との関係や信頼)で調達するので、調達に時間はかかりませんが、返済できない時に非合理的に(感情に)左右されることとなります。……
◆てるみくらぶも早く事業を畳めばよかった
…… よって、プロから借り入れることができなくなった時点で、事業としての存続価値が著しく乏しくなっているということを自身に言い聞かせ、合理的に事業を畳むという選択肢が重要とも言えます。……
▶︎良い借金「法人(プロ)からの借入」
▶︎悪い借金「個人(素人)からの借入」 ……
興味深かったので、長々と引用させていただきました。
ある社長さんが、「銀行は貸してほしい時には、貸し渋り、どうでもいい時には『借りませんか』と勧誘してくる」とこぼしていましたが、それぞれのお家事情がありますからね〜。
会社を大きくするための「良い借金」と、会社を回らなくする「悪い借金」は別物、と考えた方がよさそうです。
もしも「悪い借金」に手をつけたら、傷が深くなる前に撤退の道も視野に入れ、周りに迷惑をかけないようにする覚悟も必要かもしれませんね。
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