難民・移民問題、ギリシャ危機、各国に右翼勢力の跋扈跳梁、スペインの政治危機、NATOのミサイル防衛システム配備によるロシアとの緊張、そして、フランスのゼネスト情勢・・・。
そんなヨーロッパにおいて、英国で国民投票が行われ、昨年の総選挙を上回る投票率(72.2%)で、EU離脱が51.9%を占めました(6/24)。
様々な「分析」がなされていますが、メディア側の主たる「評価」としては「ユーロ危機のあおりで不況が続き、反EUの声が高まったことが背景にあった。最近では、後からEUに加盟した東欧諸国などからの移民が増加。社会保険費が減らされ、職を奪われる危機感も国民に広がり、離脱派を勢いづかせていた。」(朝日6/25)というところだと思います。
「離脱派」のキーワードとしては「主権を取り戻せ」というナショナリズムに訴えるものから「EU本部の現実は、選挙による審判を経ない形で各国の閣僚を経験したエリートらが牛耳っている」「EU官僚」「移民」というところで、ナイジェル・ファラージ党首(英国独立党)「独立した英国の夜明けが来ている」と煽り、英国の人々の声としても「移民の流れを今止めなければ、国は立ち行かなくなる。権利を認め続ければ、将来的に保険サービスにも影響する。」「EUにとどまる限り移民は抑制できない。」「不法移民にどんな人物が紛れ込んでいるか分からず怖い」などが拾われています(前同紙)。
一方、「残留派」の言い分としては、「EUとの連携による経済の安定」や「国際協調」などいう点でなどで、実際、投票の結果を受け、「5億人規模の単一市場にアクセスができなくなる」(キャメロン首相)「増税や歳出削減が避けられない」(財務相)など、「経済リスク」を憂いています。
日本でも経済面では「英進出企業に衝撃」「東京市場 動揺止まらず」という大見出しが目立ちます。
私たちはどう考えるべきなんでしょう?「離脱派」の排外主義に煽られて、右翼勢力が後先考えずに「独立した英国」を選択した?「離脱派」が「過激主義・ポピュリズム」で「残留派」が良識的でリベラル?
それほど単純に「左右」「上下」単純に分かれている話ではないようです。
イギリスの庶民の立場に立った見方としては「英国の失業率は大幅に下がったが臨時雇用が増え、多くの人は実質賃金が下がっている。仕事を求めて英国に来る移民に雇用を奪われたと訴える英国民は、グローバル化の波を移民に重ね合わせて流入の制限を求めた。」(アンガス・アームストロング英国経済社会研究所調査部長)というのがあります。イギリスにおける労働者としての日々の暮らしへの不満が移民に対する反感という形で結びついている、という分析です。
さらに大きな見方をする必要があると思います。「帝国主義は歴史的生命の尽きた資本主義」(レーニン)であり、さらに、その絶望的な延命策としての新自由主義、つまり「企業・資本」の自由・利益を最大限に求め、労働者をぎりぎりの極限状態に叩き込む・・・この一施策としてのEUがあったという見方です。
二つの世界大戦の壊滅的打撃により、存亡の危機に立たされた帝国主義各国が、資本主義体制の国家としての生き残るためには、もはや各国の政策・政治を規制しあっていかなければもはや延命できないという極限状況に追い込まれた姿としてのEUです。つまりは、「資本(主義)のためのEU」ということ。
そのEUのあり方にもいよいよ限界がきた、そして英国資本を始め、各国がむき出しの帝国主義的なあり方を露わにしつつある、露わにせざるをえない、という歴史的段階に進んでいる、ということだと思います。
だいたい欧州委員会の提唱なんて、「労働市場の柔軟化」(2007年)・・・つまりは、今、フランスの高校生や労働者の怒りを買っている「労働時間の増加や従業員の解雇条件の緩和など企業寄りの政策が盛り込まれた労働法制改悪に結びつくもの・・・ブルジョア階級の利益政策の提唱ということです。
もちろん、朝日新聞の「英進出企業に衝撃」「東京市場 動揺止まらず」なんていう「視点」も同じくブルジョア側の視点ですよね。
ヨーロッパ各国、そしてアメリカのトランプら「右翼的」勢力は、たとえば「EUの中央集権に対して、英国は主権と民主主義を回復した」(オーストリア・自由党)というようなナショナリズムの括りの中で、今回の投票結果を歓迎しています。そういうことなのか?
私たちは、イギリスの労働者のやむを得ない選択としてこの投票結果を見る必要があると思います。EUのあり方にも、かといって英国の資本の行方、ましては世界の株式・為替市場の影響など資本の利益のみを追求する世界のあり方に対する不満として、の投票結果です。
イギリスの労働者や民衆の「資本主義の未来」より「自分たちの未来」をどうしてくれる!?という怒りの声として今回の投票結果を受け止めたいと思います。