離婚、別居、不貞という分野の相談を受けていて思うのは、意外と「婚姻費用」という概念が知られていない、ということです。
「婚姻費用」とは、一言で言えば、結婚生活をしている間の生活費、ということになります。基本的に、より収入がある方が、より収入がない方に対し、支払う義務があるという形で、家庭裁判所で審判という手続きをすれば比較的容易に、かつ、収入に応じて形式的に認められます。
つまり、離婚に至るまでの間、別居ということになっても、そのような生活費を請求することは出来る、ということになります(もしくは、請求されることになる)。
このことは、案外、皆さん、ご存じないのです。なので、これを知ることで状況が一変することもあります。
たとえば、夫が突然、別れたい、出て行くから、というシチュエーション。妻としては、自分に原因があるとは思えないけど、さあ、どうやって暮らしていいかわからない、という場合。
こんなときは、婚姻費用の請求の調停の申立てをすればいいわけです、とりあえず(夫が働いていないなどの場合はダメですが、まあ、その場合は、一緒にいても同じ。)。
ともかくも、収入がある場合には、その収入に応じて請求申立てした月から婚姻費用が認められます。そして、家裁で認められれば、払わない場合は給与の差押えなど出来てしまいます。
なので、離婚したい夫としては、妻側の有責性を指摘出来ない限り、離婚するまでずっと婚姻費用を払い続けるか、もしくは、まとまったお金(名目は財産分与やら慰謝料やら)を渡して別れるか、迫られるという事態になったりします。
というように、「婚姻費用」は、ある種のテコのような使い道があります。だけど、結婚している以上(つまり、離婚していない以上)、稼いでいる方は面倒を見る、という「当たり前」のことではあります。
これからは、夫と妻の立ち場が逆転することもあるでしょうね。ぼちぼち、そういう事案もあります。
いずれにせよ、「法律という武器=ツール」は知っておいた方がいいと思います。いわば、「安全保障」として。そして、実務とは、その武器を実戦に用いる、ということです。当てずっぽうに撃ったり、乱射するのではなく、「戦略と戦術」をもって効率的に使用することが、この場合は得であり、結局は、傷つけ合うことが少ないのだと思うのです。
