「誘導尋問」で異議、とは? | 御苑のベンゴシ 森川文人のブログ

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 昨日は、刑事事件の証人尋問でした。警察官2名、一人は弁護人側から申請しての尋問。
 いずれにしても、被告人からすれば「敵性証人」ですので、予めの打ち合わせなどあり得ず、これまで入手した証拠等の情報に基づき、尋問を行うわけです。
 
 正直、尋問で、胸をすくような成果が獲得されるという映画のような場面はなかなかありません。そのようなことを目的とする尋問というのは、「冒険的」にすぎます。仮に、そのようなことが出来るとすれば、既に客観的な他の証拠上、「勝利」を押さえ切っている場合でしょう。

 刑事事件の立証責任からすれば、検察側の立証を崩せば足りるのです。崩すとは、その証人に証言が信用出来るものではない、そして、検察側の証拠、つまり、被告人を有罪とする根拠とされている証拠は、どうも怪しいじゃないか、疑わしいかもしれないが、これで有罪としていいのか、と裁判所をして思われることが出来ればいいのです。

 ・・・ということなのですが、決して簡単ではありません。無罪を争う証人尋問の法廷は、真剣勝負の場であり、検察官、弁護人、そして裁判所が五感を駆使して、闘う場所です。
 刑事訴訟規則199条辺りには、許される尋問、許されない尋問が細かく規定されています。例えば、誘導尋問は、主尋問では原則禁止されています(199条の3 3項)。

 ところで、「誘導尋問」ってどういうものでしょうか?定義としては、尋問の中に尋問者の望む答えが暗示されている尋問、とされていますが、具体的には?

    問い  あなたは何時に起きましたか。
    問い  あなたは8時に起きたのですか。

では、下は「誘導尋問」ということになります。証人が「はい、いいえ」で答えられるタイプの質問は誘導尋問なのです。このような質問を積み重ねれば、質問者の意図する方向に証言を持って行くのは可能だからです。
 ですので、検察官が主尋問で誘導尋問を行っている場合、弁護人は異議を出し、尋問を止めることが出来ます。もちろん、検事は「例外」である旨を主張する場合もあります。最終的には裁判所が決めます。

 そして、なんでもかんでも異議を出せば有効というわけではなく、検察官がここぞ、という結論付けを証人に言わせたい場面でこそ異議を出すべき、ということになります。

 云うは易く行うは難し。異議一つとっても、異議が可能な場面か、異議を行うことが戦略的に有効か、異議で尋問を潰したとして次の尋問で補われるだけではないか、等を瞬時に判断して、大きな枠組みの中で選択しなければなりません。
 実際には、おかしいと思ったら、まず「異議と言え」が刑事弁護の一つの教えとされています。
 
 その証人より本件事件については詳しく知っているという程度の準備が必要と言われていますが、まさにその通り。尋問とは、士(サムライ)の勝負の場。常に、常に、精進が必要です。