疑って云(い)はく、天台大師の摩訶止観(まかしかん)の第二、四種三昧の御本尊は阿弥陀仏なり、不空三蔵(ふくうさんぞう)の法華経の観智(かんち)の儀軌(ぎき)は釈迦・多宝を以(もっ)て法華経の本尊とせり、汝(なんじ)何ぞ此等(これら)の義に相違(そうい)するや。答へて云はく、是(これ)私の義にあらず。上(かみ)に出(い)だすところの経文並びに天台大師の御釈(しゃく)なり。但(ただ)し摩訶止観の四種三昧の本尊は阿弥陀仏とは、彼(か)は常坐・常行・非行非坐の三種の本尊は阿弥陀仏なり。文殊問経(もんじゅもんぎょう)・般舟三昧経(はんじゅざんまいきょう)・請観音経(しょうかんのんぎょう)等による。是(これ)は爾前(にぜん)の諸経の内 未顕真実の経なり。半行半坐三昧には二(ふたつ)あり。一(ひとつ)には方等経(ほうどうきょう)の七仏・八菩薩 等を本尊とす、彼の経による。二(ふたつ)には法華経の釈迦・多宝 等を引き奉(たてまつ)れども、法華三昧を以て案ずるに法華経を本尊とすべし。 不空三蔵の法華儀軌は宝塔品(ほうとうほん)の文(もん)によれり。此(これ)は法華経の教主を本尊とす、法華経の正意(しょうい)にはあらず。 上に挙(あ)ぐる所の本尊は釈迦・多宝・十方の諸仏の御本尊、法華経の行者の正意なり。
(平成新編1274・御書全集0365・正宗聖典0283~0284・昭和新定[3]1907~1908・昭和定本[2]1573~1574)
[弘安01(1278)年09月(佐後)]
[古写本・日興筆 北山本門寺]
[※sasameyuki※]