伝教大師の秀句(しゅうく)に云(い)はく「能化(のうけ)の竜女(りゅうにょ)歴劫(りゃっこう)の行(ぎょう)無く、所化(しょけ)の衆生も歴劫の行無し。能化所化倶(とも)に歴劫無し。妙法経力即身成仏す」と。天台の疏(しょ)に云はく「智積(ちしゃく)は別教(べっきょう)に執(しゅう)して疑(うたが)ひを為(な)し、竜女は円を明(あ)かして疑ひを釈(と)く。身子(しんし)は三蔵の権(ごん)を挾(さしはさ)んで難(なん)じ、竜女は一実(いちじつ)を以(もっ)て疑ひを除(のぞ)く」と。海竜王経(かいりゅうおうきょう)に云はく「竜女作仏(さぶつ)し国土を光明国(こうみょうこく)と号(ごう)し、名をば無垢証如来(むくしょうにょらい)と号す」云云。法華已前(いぜん)の諸経の如(ごと)きは、縦(たと)ひ人中(にんちゅう)天上(てんじょう)の女人(にょにん)なりといふとも成仏の思ひ絶(た)えたるべし。然(しか)るに竜女、畜生道(ちくしょうどう)の衆生として、戒緩(かいかん)の姿を改(あらた)めずして即身成仏せし事は不思議なり。是(これ)を始めとして、釈尊の姨母(おば)・摩訶波闍波提比丘尼(まかはじゃはだいびくに)等、勧持品(かんじほん)にして一切衆生喜見(きけん)如来と授記(じゅき)を被(こうむ)り、羅■(=眠-民+侯)羅(らごら)の母・耶輸陀羅女(やしゅだらにょ)も眷属(けんぞく)の比丘尼(びくに)と共(とも)に具足千万光相如来(ぐそくせんまんこうそうにょらい)と成(な)り、鬼道(きどう)の女人たる十羅刹女(じゅうらせつにょ)も成仏す。然(しか)れば尚殊(なおこと)に女性の御信仰あるべき御経(おきょう)にて候(そうろう)。
(平成新編0346~0347・御書全集0472~0473・正宗聖典----・昭和新定[1]0525~0526・昭和定本[1]0335~0336)
[文永02(1265)年(佐前)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]