先度(せんど)仏器まい(進)らせさせ給(たま)ひ候(そうら)ひしが、此(こ)の度(たび)此の尼御前(あまごぜん)大事の御馬にのせさせ給ひて候(そうろう)由(よし)承(うけたまわ)り候。法にす(過)ぎて候御志かな。これは殿はさる事にて、女房のはか(計)らひか。昔儒童菩薩(じゅどうぼさつ)と申せし菩薩は、五茎(ごきょう)の蓮華を五百の金銭を以(もっ)てか(買)ひとり、定光菩薩(じょうこうぼさつ)を七日七夜供養し給ひき。女人あり、瞿夷(くい)となづ(名付)く。二茎の蓮華を以て自ら供養して云(い)はく、凡夫にてあらん時は世々生々夫婦とな(成)らん、仏にならん時は同時に仏になるべし。此のちか(誓)ひく(朽)ちずして、九十一劫の間夫婦となる。結句、儒童菩薩は今の釈迦仏、昔の瞿夷は今の耶輸多羅女(やしゅだらにょ)、今法華経の勧持品(かんじほん)にして具足千万光相如来(ぐそくせんまんこうそうにょらい)是(これ)なり。悉達太子(しったたいし)檀特山(だんとくせん)に入(い)り給ひしには金泥駒(こんでいこま)、帝釈の化身。摩騰迦(まとうか)・竺法蘭(じくほうらん)の経を漢土(かんど)に渡せしには十羅刹(じゅうらせつ)化(け)して白馬となり給ふ。此の馬も、法華経の道なれば、百二十年御さか(栄)への後、霊山浄土(りょうぜんじょうど)へ乗り給ふべき御馬なり。恐々謹言。
(平成新編1102・御書全集1094・正宗聖典----・昭和新定[2]1624・昭和定本[2]1293)
[建治03(1277)年03月02日(佐後)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]