釈迦如来五百塵点劫(ごひゃくじんでんごう)の当初(そのかみ)、凡夫にて御坐(おわ)せし時、我が身は地水火風空(ちすいかふうくう)なりと知(し)ろしめして即座に悟(さと)りを開きたま(給)ひき。後に化他(けた)の為(ため)に世々番々(せせばんばん)に出世成道(じょうどう)し、在々処々(ざいざいしょしょ)に八相作仏(はっそうさぶつ)し、王宮に誕生し、樹下(じゅげ)に成道して始めて仏に成(な)る様(さま)を衆生に見知(し)らしめ、四十余年に方便の教を儲(もう)け衆生を誘引(ゆういん)す。其(そ)の後方便の諸(もろもろ)の経教を捨てゝ正直の妙法蓮華経の五智の如来の種子(しゅし)の理(ことわり)を説き顕(あら)はして、其の中に四十二年の方便の諸経を丸(まろ)かし納(い)れて一仏乗(いちぶつじょう)と丸(がん)し、人(にん)一の法と名(な)づく。一人(いちにん)の上の法なり。多人(たにん)の綺(いろ)へざる正しき文書(もんじょ)を造(つく)る慥(たし)かなる御判(ごばん)の印(いん)あり。三世(さんぜ)の諸仏の手継(てつ)ぎの文書を釈迦仏より相伝せられし時に、三千三百万億(まんのく)那由他(なゆた)の国土の上の虚空(こくう)の中に満(み)ち塞(ふさ)がれる若干(そこばく)の菩薩達の頂(いただき)を摩(な)で尽(つ)くして、時を指して末法近来(このごろ)の我等衆生の為(ため)に慥(たし)かに此(こ)の由(よし)を説き聞かせて、仏の譲(ゆず)り状(じょう)を以(もっ)て末代の衆生に慥(たし)かに授与(じゅよ)すべしと慇懃(おんごん)に三度まで同じ御語に説き給(たま)ひしかば、若干の菩薩達各(おのおの)数を尽くして躬(み)を曲(ま)げ頭(こうべ)を低(た)れ、三度まで同じ言に各(おのおの)我も劣(おと)らずと事請(ことう)けを申し給ひしかば、仏心安(こころやす)く思(おぼ)し食(め)して本覚の都に還(かえ)りたま(給)ふ。三世の諸仏の説法の儀式作法(ぎしきさほう)には、只(ただ)同じ御言に時を指したる末代の譲り状なれば、只一向(いっこう)に後五百歳(ごごひゃくさい)を指して此の妙法蓮華経を以て成仏すべき時なりと譲り状の面(おもて)に載(の)せたる手継(てつ)ぎの証文(しょうもん)なり。
(平成新編1419~1420・御書全集0568~0569・正宗聖典----・昭和新定[3]2042~2043・昭和定本[2]1698)
[弘安02(1279)年10月(佐後)]
[真跡、古写本・無]
[秘・三世諸仏の勘文]
[※sasameyuki※]