又(また)妙の文字は花のこのみ(果実)となるがごとく、半月の満月となるがごとく、変(へん)じて仏とな(成)らせ給(たま)ふ文字なり。されば経に云(い)はく「能(よ)く此(こ)の経を持(たも)つは則(すなわ)ち仏身(ぶっしん)を持つなり」と。天台大師の云はく「一々(いちいち)文々(もんもん)是(これ)真仏(しんぶつ)なり」等云云。妙の文字は三十二相(そう)八十種好(しゅこう)円備(えんび)せさせ給ふ釈迦如来にておはしますを、我等が眼(まなこ)つたな(拙)くして文字とはみ(見)まいらせ候なり。譬(たと)へば、はちす(蓮)の子(み)の池の中に生(お)ひて候がやう(様)に候。はちすの候(そうろう)を、としより(年老)て候(そうろう)人は眼くらくしてみ(見)ず。よる(夜)はかげ(影)の候を、やみ(暗)にみ(見)ざるがごとし。されども此(こ)の妙の字は仏にておはし候なり。又、此の妙の文字は月なり、日なり、星なり、かゞみなり、衣なり、食なり、花なり、大地なり、大海なり。一切の功徳を合(あ)はせて妙の文字とな(成)らせ給ふ。又は如意宝珠(にょいほうじゅ)のたま(珠)なり。か(是)くのごと(如)くし(知)らせ給ふべし。くは(委)しくは又々(またまた)申すべし。
はわき(伯耆)殿申させ給へ
(平成新編1120・御書全集1484・正宗聖典ーーーー・昭和新定[2]1655~1656・昭和定本[2]1748)
[建治03(1277)年05月04日"弘安03(1280)年05月04日"(佐後)]
[古写本・日興筆 富士大石寺]
[※sasameyuki※]