相州鎌倉(そうしゅうかまくら)より北国佐渡国(さどのくに)、其(そ)の中間一千余里(いっせんより)に及(およ)べり。山海(さんかい)はる(遥)かにへだ(隔)て、山は峨々(がが)海は涛々(とうとう)、風雨(ふうう)時にしたがふ事なし。山賊海賊充満(じゅうまん)せり。すくすく(宿々)とまりとまり(泊々)民の心(こころ)虎のごとし犬のごとし。現身(げんしん)に三悪道(さんあくどう)の苦をふ(経)るか。其の上当世(とうせい)の乱世、去年より謀叛(むほん)の者 国に充満し、今年二月十一日合戦(かっせん)、其(そ)れより今(いま)五月のすゑ(末)、いま(未)だ世間安穏(あんのん)ならず。而(しか)れども一(ひとり)の幼子(おさなご)あり。あづ(預)くべき父もたの(頼)もしからず。離別(りべつ)すでに久(ひさ)し。かたがた筆も及ばず、心弁(わきま)へがたければとゞ(止)め了(おわ)んぬ。
(平成新編0607・御書全集1217・正宗聖典----・昭和新定[1]0873・昭和定本[1]0647)
[文永09(1272)年05月25日(佐後)]
[真跡・静岡芝川 本成寺外五ヶ所(10%以上40%未満現存)]
[※sasameyuki※]