返(かえ)す返(がえ)す今に忘れぬ事は頸(くび)切られんとせし時、殿はとも(供)して馬の口に付きて、な(泣)きかな(悲)しみ給(たま)ひしをば、いかなる世にか忘れなん。設(たと)ひ殿の罪ふか(深)くして地獄に入(い)り給はゞ、日蓮をいかに仏になれと釈迦仏こしら(誘)へさせ給ふとも、用(もち)ひまいらせ候べからず。同じく地獄なるべし。日蓮と殿と共に地獄に入るならば、釈迦仏・法華経も地獄にこそをはしまさずらめ。暗(やみ)に月の入るがごと(如)く、湯に水を入るがごとく、氷に火をたくがごとく、日輪にやみをな(投)ぐるが如くこそ候はんずれ。若(も)しすこ(少)しも此の事をたが(違)へさせ給ふならば日蓮うら(恨)みさせ給ふな。此の世間の疫病はとの(殿)ゝまう(申)すがごとく、年帰りなば上へあがりぬとをぼ(覚)え候ぞ。十羅刹(じゅうらせつ)の御計(はか)らひか、今且(いましばら)く世にをはして物を御覧(ごらん)あれかし。
(平成新編1173・御書全集1173・正宗聖典----・昭和新定[2]1732~1733・昭和定本[2]1394~1395)
[建治03(1277)年09月11日(佐後)]
[真跡・身延曾存]
[※sasameyuki※]