柿(かき)三本・酢(す)一桶・くゝたち(茎立)・土筆(つくし)給(た)び候ひ了(おわ)んぬ。
唐土(とうど)に天台山と云ふ山に竜門と申して百丈の滝あり。此の滝の麓(ふもと)に、春の初めより登(のぼ)らんとして多くの魚集まれり。千万に一も登ることを得れば竜となる。魚、竜と成らんと願ふこと、民の昇殿を望むが如く、貧なるものの財(たから)を求むるが如し。仏に成ることも亦(また)此(か)くの如し。彼(か)の滝は百丈、早き事、強兵(がっぴょう)の天(そら)より箭(や)を射徹(いとお)すより早し。此(こ)の滝へ魚登らんとすれば、人集まりて羅網(あみ)をかけ、釣りをたれ、弓を以(もっ)て射る。左右の辺に間(ひま)なし。空には■(=雕-隹+鳥)(くまたか)・鷲(わし)・鵄(とび)・烏(からす)、夜は虎(とら)・狼(おおかみ)・狐(きつね)・狸(たぬき)何にとなく集まりて食(く)らひ噬(か)む。仏になる事も是(これ)を以て知(し)んぬべし。
(平成新編0953・御書全集1377・正宗聖典----・昭和新定[2]1434・昭和定本[2]1143)
[建治02(1276)年02月(佐後)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]