第八に大阿鼻地獄(だいあびじごく)とは、又は無間地獄(むけんじごく)と申すなり。欲界の最底大焦熱地獄(だいしょうねつじごく)の下にあり。此の地獄は縦広(じゅうこう)八万由旬(ゆじゅん)なり、外に七重の鉄の城あり。地獄の極苦は且(しばら)く之を略す。前の七大地獄並びに別処の一切の諸苦を以て一分として、大阿鼻地獄の苦、一千倍勝れたり。此の地獄の罪人は大焦熱地獄の罪人を見る事、他化自在天(たけじざいてん)の楽しみの如し。此の地獄の香(か)のくさゝを人か(嗅)ぐならば、四天下(してんげ)・欲界・六天の天人皆し(死)ゝなん。されども出山(しゅっせん)・没山(もっせん)と申す山、此の地獄の臭き気(いき)ををさえて、人間へ来たらせざる故に、此の世界の者死せずと見へぬ。若し仏此の地獄の苦を具(つぶさ)に説かせ給はゞ、人聴きて血をはいて死すべき故に、くわしく仏説き給はずとみへたり。此の無間地獄の寿命の長短は一中劫(いっちゅうこう)なり。一中劫と申すは、此の人寿(にんじゅ)無量歳なりしが百年に一寿を減じ、又百年に一寿を減ずるほどに、人寿十歳の時に減ずるを一減と申す。又十歳より百年に一寿を増し、又百年に一寿を増する程に、八万歳に増するを一増と申す。此の一増一減の程を小劫(しょうこう)として、二十の増減を一中劫とは申すなり。此の地獄に堕(お)ちたる者、これ程久しく無間地獄に住して大苦をうくるなり。業因を云はゞ、五逆罪(ごぎゃくざい)を造る人此の地獄に堕つべし。五逆罪と申すは一に殺父(しぶ)、二に殺母(しも)、三に殺阿羅漢(しあらかん)、四に出仏身血(すいぶっしんけつ)、五に破和合僧(はわごうそう)なり。今の世には仏ましまさず。しかれば出仏身血あるべからず。和合僧なければ破和合僧なし。阿羅漢なければ殺阿羅漢これなし。但(ただ)殺父殺母の罪のみありぬべし。しかれども王法のいましめきびしくあるゆへに、此の罪をか(犯)しがたし。若(も)し爾(しか)らば、当世には阿鼻地獄に堕(お)つべき人すくなし。但し相似(そうじ)の五逆罪これあり。木画(もくえ)の仏像・堂塔(どうとう)等をやき、かの仏像等の寄進の所をうばいとり、卒兜婆(そとば)等をきりやき、智人を殺しなんどするもの多し。此等は大阿鼻地獄の十六の別処に堕つべし。されば当世の衆生十六の別処に堕つるもの多きか。又謗法(ほうぼう)の者この地獄に堕つべし。
(平成新編0278~0279・御書全集0447・正宗聖典----・昭和新定[1]0434~0435・昭和定本[1]0253~0254)
[弘長02(1262)年(佐前)]
[真跡・身延曾存]
[※sasameyuki※]