其の上女人は五障三従と申して、世間出世に嫌はれ一代の聖教に捨てられ畢んぬ。唯法華経計りにこそ竜女が仏に成り、諸の尼の記■(=萌-明+別)(きべつ)はさづけられて候ひぬれば、一切の女人は此の経を捨てさせ給ひては何れの経をか持たせ給ふべき。天台大師は震旦(しんだん)国の人、仏滅後一千五百余年に仏の御使ひとして世に出でさせ給ひき。法華経に三十巻の文を注し給ひ、文句と申す文の第七巻には「他経には但男に記して女に記せず」等云云。男子も余経にては仏に成らざれども且く与へて其れをば許してむ。女人に於ては一向諸経に於ては叶ふべからずと書かれて候。縦令(たとい)千万の経々に女人仏に成るべしと許されたりと雖も法華経に嫌はれなば何の憑(たの)みか有るべきや。
教主釈尊、我が諸経四十余年の経々を未顕真実と悔い返し、涅槃経等をば当説と嫌ひ給ひ、無量義経をば今説と定めを(置)き、三説にひで(秀)たる法華経に「正直に方便を捨てゝ但無上道(むじょうどう)を説く、世尊の法は久しくして後要(かなら)ず当に真実を説くべし」と釈尊宣べ給ひしかば、宝浄世界の多宝仏は大地より出でさせ給ひて真実なる由の証明を加へ、十方分身の諸仏は広長舌を梵天に付け給ふ。十方世界微塵数(みじんじゅ)の諸仏の御舌は不妄語戒の力に酬(むく)いて八葉の赤蓮華にを(生)いい(出)でさせ給ひき。一仏二仏三仏乃至十仏百仏千万億仏、四百万億那由他の世界に充満せりし仏の御舌をもって定めを(置)き給える女人成仏の義なり。謗法無くして此の経を持つ女人は十万虚空に充満せる慳貪(けんどん)・嫉妬・瞋恚(しんに)・十悪・五逆なりとも、草木の露の大風にあえるなるべし。三冬の氷の夏の日に滅するが如し。但滅し難き者は法華経謗法の罪なり。譬へば三千大千世界の草木を薪と為すとも、須弥山(しゅみせん)は一分も損じ難し。縦令(たとい)七つの日出でて百千日照らすとも、大海の中をばかわ(乾)かしがたし。設ひ八万聖教を読み大地微塵の塔婆を立て、大小乗の戒行を尽くし、十方世界の衆生を一子の如くに為すとも、法華経謗法の罪はきゆべからず。我等過去現在未来の三世の間に仏に成らずして六道の苦を受くるは偏に法華経誹謗の罪なるべし。女人と生まれて百悪身に備ふるも、根本此の経誹謗の罪より起これり。
然者(されば)此の経に値ひ奉らむ女人は皮をはいで紙と為し、血を切りてすみ(墨)とし、骨を折りて筆とし、血のなんだ(涙)を硯の水としてか(書)きたてまつ(奉)るともあ(飽)くご(期)あるべからず。何に況んや衣服・金銀・牛馬・田畠等の布施を以て供養せむはもの(物)のかず(数)にてかずならず。
(平成新編0508~0509・御書全集1235~1236・正宗聖典1027・昭和新定[2]1393~1394・昭和定本[1]0412~0414)
[文永08(1271)年"文永03(1266)年""文永02(1265)年""建治01(1275)年"(佐後?)]
[真跡・鎌倉本覚寺外六ヶ所(10%以上40%未満現存)]
[※sasameyuki※]