『千日尼御前御返事』(佐後) | 細雪の物置小屋

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[参考]『日蓮大聖人の「御書」をよむ 上 法門編』著者・小林正博
発行所・株式会社第三文明社
『日蓮大聖人の「御書」をよむ 下 御消息編』著者・河合 一
発行所・株式会社第三文明社

 青鳧(せいふ)一貫文・干飯(ほしいい)一斗・種々の物給び候ひ了(おわ)んぬ。
 仏に土の餅を供養せし徳勝童子は阿育大王と生まれたり。仏に漿(こんず)をまひらせし老女は辟支仏(びゃくしぶつ)と生まれたり。法華経は十方三世の諸仏の御師なり。十方の仏と申すは東方善徳仏・東南方無憂徳(むうとく)仏・南方栴檀徳(せんだんとく)仏・西南方宝施(ほうせ)仏・西方無量明(むりょうみょう)仏・西北方華徳(けとく)仏・北方相徳(そうとく)仏・東北方三乗行(さんじょうぎょう)仏・上方広衆徳(こうしゅとく)仏・下方明徳(みょうとく)仏なり。三世の仏と申すは過去荘厳劫(しょうごんこう)の千仏・現在賢劫(けんごう)の千仏・未来星宿劫の千仏、乃至華厳経・法華経・涅槃経等の大小・権実・顕密の諸経に列(つら)なり給へる一切の諸仏、尽十方世界の微塵数(みじんじゅ)の菩薩等も、皆悉く法華経の妙の一字より出生し給へり。故に法華経の結経たる普賢経に云はく「仏の三種の身は方等(ほうどう)より生ず」等云云。方等とは月氏の語(ことば)、漢土には大乗と翻(ほん)ず。大乗と申すは法華経の名なり。阿含経は外道の経に対すれば大乗経、華厳・般若・大日経等は阿含経に対すれば大乗経、法華経に対すれば小乗経なり。法華経に勝れたる経なき故に一(ひとり)大乗経なり。例せば南閻浮提八万四千の国々の王々は其の国々にては大王と云ふ。転輪聖王(てんりんじょうおう)に対すれば小王と申す。乃至六欲四禅(しぜん)の王々は大小に渡る。色界の頂の大梵天(ぼんてん)王独り大王にして小の文字をつくる事なきが如し。仏は子なり、法華経は父母なり。譬へば一人の父母に千子(せんし)有りて一人の父母を讃歎すれば千子悦びをなす。一人の父母を供養すれば千子を供養するになりぬ。又法華経を供養する人は十方の仏菩薩を供養する功徳と同じきなり。十方の諸仏は妙の一字より生じ給へる故なり。譬へば一つの師子に百子あり。彼の百子諸の禽獣(きんじゅう)に犯さるゝに、一つの師子王吼(ほ)ゆれば百子力を得て、諸の禽獣皆頭(こうべ)七分にわ(破)る。法華経は師子王の如し、一切の獣(けもの)の頂とす。法華経の師子王を持つ女人は、一切の地獄・餓鬼・畜生等の百獣に恐るゝ事なし。譬へば女人の一生の間の御罪は諸の乾草(かれくさ)の如し。法華経の妙の一字は小火の如し。小火を衆草につきぬれば、衆草焼け亡ぶるのみならず、大木大石皆焼け失せぬ。妙の一字の智火(ちか)以て此くの如し。諸罪消ゆるのみならず、衆罪かへりて功徳となる。毒薬変じて甘露となる是なり。譬へば黒漆に白き物を入れぬれば白色となる。女人の御罪は漆の如し、南無妙法蓮華経の文字は白き物の如し。人は臨終の時、地獄に堕つる者は黒色となる上、其の身重き事千引(ちびき)の石(いわ)の如し、善人は設ひ七尺八尺の女人なれども色黒き者なれども、臨終に色変じて白色となる。又軽き事鵞毛(がもう)の如し、軟(やわ)らかなる事兜羅綿(とろめん)の如し。
(平成新編1289~1290・御書全集1315~1316・正宗聖典1024・昭和新定[3]1930~1932・昭和定本[2]1597~1599)
[弘安01(1278)年閏10月19日(佐後)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]