『乙御前御消息』(佐後) | 細雪の物置小屋

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[参考]『日蓮大聖人の「御書」をよむ 上 法門編』著者・小林正博
発行所・株式会社第三文明社
『日蓮大聖人の「御書」をよむ 下 御消息編』著者・河合 一
発行所・株式会社第三文明社

 女人は夫(おとこ)を魂とす。夫なければ女人魂なし。此の世に夫ある女人すら、世の中渡りがた(難)ふみえて候に、魂もなくして世を渡らせ給ふが、魂ある女人にもすぐ(勝)れて心中かひがひしくおはする上、神にも心を入れ、仏をもあが(崇)めさせ給へば、人に勝れておはする女人なり。鎌倉に候ひし時は念仏者等はさてをき候ひぬ。法華経を信ずる人々は、志あるもなきも知られ候はざりしかども、御勘気をかほりて佐渡の島まで流されしかば、問ひ訪(とぶら)ふ人もなかりしに、女人の御身としてかたがた御志ありし上、我と来たり給ひし事うつゝ(現)ならざる不思議なり。其の上いま(今)のまう(詣)で又申すばかりなし。定んで神もまぼ(守)らせ給ひ、十羅刹も御あは(憐)れみましますらん。
 法華経は女人の御ためには、暗きにともしび(灯火)、海に船、おそ(恐)ろしき所にはまぼ(守)りとなるべきよしちか(誓)はせ給へり。羅什(らじゅう)三蔵は法華経を渡し給ひしかば、毘沙門天王(びしゃもんてんのう)は無量の兵士(つわもの)をして葱嶺(そうれい)を送りしなり。道昭(どうしょう)法師は野中にして法華経をよ(読)みしかば、無量の虎来たりて守護しき。此も又彼にはかはるべからず。地には三十六祇(ぎ)、天には二十八宿まぼ(守)らせ給ふ上、人には必ず二つの天、影の如くにそ(添)ひて候。所謂一をば同生(どうしょう)天と云ひ、二をば同名(どうみょう)天と申す。左右の肩にそひて人を守護すれば、失(とが)なき者をば天もあやまつ事なし。況んや善人におひてをや。されば妙楽大師のたまはく「必ず心の固きに仮(よ)りて神の守り則ち強し」等云云。人の心かたければ、神のまぼ(守)り必ずつよしとこそ候へ。是は御ために申すぞ。古(いにしえ)の御心ざし申す計りなし。其れよりも今一重強盛に御志あるべし。其の時は弥々(いよいよ)十羅刹女の御まぼ(守)りもつよかるべしとおぼすべし。
(平成新編0896~0897・御書全集1219~1220・正宗聖典----・昭和新定[2]1326~1327・昭和定本[2]1097~1099)
[建治01(1275)年08月04日(佐後)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]