『四恩抄』(佐前) | 細雪の物置小屋

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[参考]『日蓮大聖人の「御書」をよむ 上 法門編』著者・小林正博
発行所・株式会社第三文明社
『日蓮大聖人の「御書」をよむ 下 御消息編』著者・河合 一
発行所・株式会社第三文明社

 仏法を習ふ身には、必ず四恩を報ずべきに候か。四恩とは心地観経(しんじかんぎょう)に云はく、一には一切衆生の恩、一切衆生なくば衆生無辺誓願度の願を発(お)こし難し。又悪人無くして菩薩に留難(るなん)をなさずば、いかでか功徳をば増長せしめ候べき。二には父母の恩、六道に生を受くるに必ず父母あり。其の中に或は殺盗(せっとう)・悪律儀(あくりつぎ)・謗法の家に生まれぬれば、我と其の科(とが)を犯(おか)さゞれども其の業(ごう)を成就す。然るに今生の父母は我を生みて法華経を信ずる身となせり。梵天・帝釈・四大天王・転輪聖王(てんりんじょうおう)の家に生まれて、三界四天をゆづられて人天四衆に恭敬(くぎょう)せられんよりも、恩重きは今の某(それがし)が父母なるか。三には国王の恩、天の三光に身をあたゝめ、地の五穀に神(たましい)を養ふこと、皆是国王の恩なり。其の上、今度(このたび)法華経を信じ、今度生死を離るべき国主に値ひ奉れり。争(いか)でか少分の怨(あだ)に依っておろかに思ひ奉るべきや。四には三宝(ぼう)の恩、釈迦如来無量劫の間菩薩の行を立て給ひし時、一切の福徳を集めて六十四分と成して、功徳を身に得給へり。其の一分をば我が身に用ひ給ふ。今六十三分をば此の世界に留め置いて、五濁雑乱(ごじょくぞうらん)の時、非法の盛んならん時、謗法の者国に充満せん時、無量の善神も法味をなめずして威光勢力減ぜん時、日月光を失ひ、天竜(てんりゅう)雨をくださず、地神地味(ちみ)を減ぜん時、草木根茎(こんきょう)枝葉華果(けか)薬等の七味も失はん時、十善の国王も貪瞋癡をまし、父母六親に孝せずしたしからざらん時、我が弟子、無智無戒にして髪ばかりを剃りて守護神にも捨てられて、活命(かつみょう)のはかりごとなからん比丘比丘尼の命のさゝへとせんと誓ひ給へり。又果地(かじ)の三分の功徳、二分をば我が身に用ひ給ひ、仏の寿命百二十まで世にましますべかりしが八十にして入滅し、残る所の四十年の寿命を留め置きて我等に与へ給ふ恩をば四大海の水を硯(すずり)の水とし、一切の草木を焼いて墨となして一切のけだものゝ毛を筆とし、十方世界の大地を紙と定めて注(しる)し置くとも争(いか)でか仏の恩を報じ奉るべき。法の恩を申さば法は諸仏の師なり。諸仏の貴き事は法に依る。されば仏恩を報ぜんと思はん人は法の恩を報ずべし。
(平成新編0267~0268・御書全集0937~0938・正宗聖典----・昭和新定[1]0418~0420・昭和定本[1]0237~0239)
[弘長02(1262)年01月16日(佐前)]
[真跡、古写本・無]
[※sasameyuki※]