今回もあるトンデモ経済怪説動画の金融緩和政策批判のデタラメぶりを指摘します。

 

前々回と前回の記事です。

1回目「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その1 ~ほんとうの金融緩和政策の目的~

2回目「頓珍漢すぎる金融緩和政策批判 その2 ~流動性の罠に陥ると金融緩和は効かない?~

 

 

このシリーズはある特定のネット動画について批判をしていくものですが、1990年代から四半世紀に渡って日本の民間経済力を削いできた日銀理論の邪悪性を顕かにしていくという意図で書いています。中央銀行と金融政策の二大使命は通貨と雇用を含めた民間投資の安定です。アメリカの中央銀行FRBはこのふたつをデュアルマンデートとして掲げ続けてきましたが、日銀の場合は現在の黒田東彦日銀体制になるまで通貨価値の安定ばかりに固執し、雇用と民間投資の安定には関心を向けてきませんでした。このことで民間企業の投資と事業意欲を萎えさえ、1980年代まで世界でもきわめて安定していた雇用を不安定化させております。投資不足は日本の産業におけるイノベーションやクリエーションが生まれる機会も奪い、国際競争力を失うことにもつながっています。
 
投資といいますと株式とか不動産などに対する投機行為を連想する人が多いですが、このブログでは新しい製品やサービスを産み出すために研究開発を行うとか、設備や店舗を拡張するとか、新たな人材を雇い育成するといったことに企業がお金を注ぎこむことを主に指しています。
 
今回はアベノミクスで雇用を増やしたかどうかということについての話をしていきましょう。
 
動画の間違い その5 「雇用の改善はアベノミクスのおかげではない」
 
動画で雇用の改善は金融緩和政策によるものではないのだという屁理屈がいくつも並べられています。
「雇用の回復は民主党政権時代からはじまっていた」とか
「正社員ではなく非正規雇用が増えたから」
「少子化によって労働力人口が減少したからだ」
・・・・・などなどです。
 
この手の金融緩和無効論については既にいろんな方が反駁しておられます。とくに小まめにそれをされてきたのは山本博一さんでしょう。記事をいくつか紹介させていただきます。
 
山本博一さん ひろのひとりごと
 
あと前々回記事に関するものです。
 
だいたい以上の記事を読まれると動画で言っていることが、実に寝ぼけた周回遅れのものだということに気がつくかと思われます。
よくある「アベノミクスで雇用が増えたわけではない」という言いがかりの例であるのが、完全失業率の変化が安倍政権時代と民主党政権時代と変わらないというものですが、これについては民主党政権時代は失業をした人が再就職を断念して非労働力人口になってしまうかたちでの失業者数の低下だったのに対し、安倍政権下においては就業者が増えるかたちでの失業者数低下と質が異なっているという反論ができてしまうのですね。山本さんのブログ記事で引用してあった総務庁作成のグラフをこちらも載せておきます。
 
第1章 日本経済の現状とデフレ脱却に向けた動き
第3節 人口減少・少子高齢化の中での労働市場の変化 より
http://www5.cao.go.jp/keizai3/2016/0117nk/n16_1_3.html
 
あと正規雇用が増えずに非正規雇用ばかりが増加したとか言っていますが、こちらも山本さんはしっかり反論されています。
また山本さんが利用された総務省のグラフを引用いたしますが、2014年以降から正規雇用がV字回復していますよね。
 
このブログのフォロワーさんである血祭謙之助さんも雇用に関するデータを細かく検証しながら、金融緩和無効論に対する反論記事を書かれていました。しかし残念ながら現在はその記事を閲覧できません。
 
ここでもうひとつ別の論法をつかって動画にあった雇用回復は金融緩和と無関係論に対する反論をしてしましょう。
その前にもう一度金融緩和政策とは何か?そしてどのような波及経路で雇用の改善に結びつくのかについて再確認しないといけません。
 
金融緩和政策とは金利の引き下げという手段を主に、民間の事業活動や投資意欲を最大限に引き出すことです。物価を上げるのが目的だとかマネーストックを増やすのが目的だとか言っている人間は二文字です。
 
アベノミクスで採り入れられたリフレーション政策で中央銀行総裁によるインフレ目標のコミットメントが採り入れられています。予想と期待を変えることで民間の経営者の判断や行動を変えさせ、積極経営や積極投資に向かわせます
 
企業が積極的な事業拡大や投資を行うということは、製品の原材料仕入れや店舗・設備の増強、そして人に対する投資というべき雇用にお金を注ぎこんでいくということです
 
デフレ不況下ですと企業は儲けが増えることを予想・期待できないためにお金を事業拡大のために遣おうとはしません。銀行などからお金を借りても金利負担が増えるばかりです。しかしデフレから脱却し、自社の業績が伸びると予想できれば持っているお金を事業につぎ込んで稼ぎをもっと殖やそうという動機が生まれます。よく「企業の内部留保ガー」と騒ぐ人がいますが、その内部留保を積極投資という形で市中に吐き出させるにはインフレ予想や期待が不可欠です。
 
失業率やら就業者数、賃金などといった雇用に関するデータで金融緩和政策の効果があったのかなかったのかという議論がネット上で延々と繰り返されてきましたが、自分はまず金融緩和政策によって企業の事業拡大や投資意欲が高まったことを証明した上で、その結果として雇用が拡大したのだという論法で説明します。リフレーション政策は将来の予想や期待に働きかけることが肝です。同じ雇用に関するデータでも将来の予想や期待に左右されやすいもののひとつとして新卒者求人倍率があります。新卒者は企業が何年もかけ彼らを育て上げ、長期で雇用し続けることを前提で採用します。つまりは企業が自社の業績は安定して彼らを何十年も雇い続ける自信があるから雇うのです。新卒学生の雇用は長期で元を採る大型投資です。
 
企業投資のひとつである設備投資の変化です。
安倍政権発足を境に増加していますね。(民主党政権時代にも上昇がはじまっているかに見えますが、東日本大震災後の復旧・復興投資の可能性が高く、2012年になると安倍政権が発足するまで漸減傾向になっていました。)
 
リクルートワークス研究所がまとめた大卒者求人倍率をみてみましょう。
大卒者求人倍率が伸び始めるのはアベノミクスが始まった後の2015年3月卒からです。1~2年のタイムラグが生じましたが企業の長期業績見通しが好転した結果だといえましょう。(このグラフでは切れていますが残念ながら大卒者求人倍率の増加は2018年卒で止まってしまいました。2020年現在コロナ危機でさらに落ち込みがひどくなっています。)
 
第一回目の記事で紹介しました菅原晃さんですが、「アベノミクスが成功しているかどうかは、「未来に働きかける」ことに成功しているかどうかが基準になります」と述べ、目先の「求人倍率」や「失業率」ではなく、未来の予想が反映される投資や高卒・大卒求人倍率で効果があったのかなかったのかを見るべきだとしております。
 
菅原晃さんのブログ記事で掲載されていた図表4点

 

菅原さんがどこかのブログ記事かにコメントされていましたが、現在の指標である「求人倍率」やら「失業率」を持ち出してアベノミクスの効果があったとかなかったとか論ずるのは半可通、シロウトだと断じておられます。

 

例の動画ですが完全失業率がどうのこうの、実質賃金がああだのこうだの、さらにはサラリーマンのお小遣いの額まで持ちだしていますw

完璧にド素人です。

 

アベノミクスで正規雇用が増加のはなぜか?やはりこれも企業経営者が将来の見通しを好転させた結果なのです。

将来の予想や期待を変えることにアベノミクスは成功していたのです。(もう過去形になっていますが)

 

「未来が現在を決める」という現代経済学の本質をまったく理解できないのが問題の動画制作者であります。

 

これで動画の間違いは5つ指摘したことになりますが、まだまだ間違いは数えきれないほどあります。ここまでは金融緩和無効論でしたが、もっと質の悪い有害論も動画でバラ撒いています。次回はその点に斬り込みます。

 

~お知らせ~

「お金の生み方と配り方を変えれば 暮らしが変わります」

 

「新・暮らしの経済」~時評編~

サイト管理人 凡人オヤマダ ツイッター https://twitter.com/aindanet

 

人気ブログランキングへ