個人攻撃ばかり続けてしまっておりますが、例の経済怪説動画のデタラメぶりが看過できないレベルに達しているので、早いうちに芽を摘んでおく必要があると思い、動画の批判を続けております。社会保険料(税)の話や貨幣と中央銀行の役割と歴史についての動画の内容が犯罪レベルといってもいいぐらい悪質で、前者の動画で言っているような暴論がまかり通れば社会保険制度や私たちの国民生活だけではなく国家財政規律すらも危うくしかねません。

 

問題の動画投稿主はさらに粗悪な異次元金融緩和政策についての頓珍漢な怪説動画までつくってきました。もう手に負えません。こうした動画が制作されてしまったり、それを視て「わかりやすかった」などと言って賛同してしまうような人が少なからずいるということは日本人の経済学とくに金融政策に対する知識が極めて欠落していることを物語っています。

 


私はツイッター上でフォロワーさんたちに向けて上の動画の誤りを5つ以上指摘しなさいというツイートをしました。今回の記事はその解答というかたちをとっていきます。動画の批判に入る前に金融政策と金融緩和政策の役割と目的をここではっきりさせておきましょう。

 

金融政策の目的は二つあります。通貨と(雇用を含めた)民間投資の安定です。アメリカの中央銀行であるFRB(連邦準備制度理事会)は「最大限の雇用(maximum employment)」と「物価安定(stable prices)」という二大使命(デュアルマンデート)を背負っています。雇用は企業にとって人への投資というべきものです。ですので私は括弧つきで「(雇用を含めた)投資」という言い方を多用します。

民間投資には民間企業がモノやサービスの生産のために研究開発を行ったり、設備や店舗を増強したり、今の述べた人への投資というべき雇用を増やすことが範疇に含まれます。あと一般個人ですと住宅を購入したり、職能を磨くための資格取得費用や学費といったものも投資に入ります。

金融緩和政策とは金利引き下げなどによって、民間企業の投資に遣う資金調達コストを下げ、積極的な事業活動を後押しするものです。個人ですと住宅や自動車、学費ローンなどの金利引き下げでそれらの購入を促します。いずれにしても民間の自由な経済活動の活性化を目指すのが金融緩和政策の目的です。このことをまず念頭に入れておく必要があります。

 

だから金融緩和政策の効果があったかなかったの判断は物価とかマネーストックでするものではないのです。

金融緩和政策の効果は投資の状況で判断すべきです。

 

あとよい参考となるブログ記事を紹介しておきましょう。北海道の高校で教鞭をとられ「中高の教科書でわかる経済学」を著された菅原晃さんのブログ記事です。かなりスマートかつコンパクトにリフレーション政策についての解説をまとめられており、これを読めば例の動画がいかに酷いかがわかるかと思います。

 

菅原晃さんのブログ記事

アベノミクスは、100点満点

黒田総裁のインフレ目標は失敗に終わった??だと??? その1

黒田総裁のインフレ目標は失敗に終わった??だと??? その2

池田信夫

池田信夫 その2

 

菅原さんが書かれた記事はアベノミクスがはじまった2013年~2018年までに書かれたものです。この間論旨はほぼ一貫しています。

 

ここから先は問題の動画批判に入っていきます。まずいちばんの根本的な金融緩和政策の認識の誤りから指摘ます。

 

動画の間違い その1 「インフレにするための金融緩和だろ?」

 

私が冒頭で述べたように金融緩和政策の目的は2%のインフレを起こすことではありません。民間の投資意欲(と雇用)の向上が目的です。インフレターゲットは目的ではなく目標であり、実質金利を下げて民間の投資意欲を引き出すための手段として掲げたものです。

実質金利=名目金利-予想物価上昇率でしたね。同時にリフレーション政策の効果が高すぎて景気過熱や過剰な物価高騰が発生しはじめたときに政策を打ち止めする目安でもあります。動画の投稿主は目的と目標を混同しています。あと注意しておかねばならないのは現在の物価を上げると景気が良くなるんダーではないのです。景気が回復して人々の購買意欲が伸びて最終的に物価が上がっていくという予想や期待が投資意欲を引き出すのです。

こちらは当方が2018年に書いた記事です。

インフレターゲットのほんとうの意味 ~リフレはコミットメント~

 

 

「2%の物価上昇が実現しなかったから異次元金融緩和政策は失敗ダー」というのが非常にナンセンスであることは別の私の記事とフーテンの俺さんのブログ記事でも書いてあります。

 当方の記事 「インフレ目標の意味を知らないシロウトが審議委員を務める日銀 ~中村豊明~

 MBK48 「インフレ2%目標の”目標”の意味を理解できない人々

 

夜中に北に向かって行きたい人が道に迷わないために北極星が輝く方向に進むことを「北極星なんかに行けるわけがないからそんなのを目標にするな」と言ってしまうのはおかしな話でしょう。

 

あと2%の物価目標には「それまで金利の引き上げをしない」というコミットメントも含まれます。企業経営者は当分先まで金利が上がらないと予想しできるので安心して大型投資ができます。

 

とにかく動画の投稿主は異次元金融緩和の目的をただ物価だけ上げることだと思い込んでいて、原油価格がどうのこうのと的外れな話ばかり続けます。

 

動画の間違い その2 マネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えなかったから異次元金融緩和は失敗?

 

これは動画の投稿主だけではなく、他の人もやらかしている間違いです。動画の投稿主は三橋貴明に批判的ですが、彼もこの論法で量的金融緩和無効論を唱えていますw MMT(現代貨幣理論)信奉者だけではなく自称リフレ派の素人経済アカウントでさえ間違えています。この手の量的金融緩和無効論の震源は翁邦雄などをはじめとする悪しき日銀理論に染まった学者たちなのですが、経済学者の田中秀臣さんや野口旭さんは「日銀理論とMMTは同類」だと批判します。そもそも量的融緩和と金いうものはマネーストックを増やすこと自体を目的でやっているのではないのです。日銀の当座預金口座に準備預金をブタ積みする理由は金利を長期に抑え込むためです。それと銀行に融資で遣うお金に余裕を与えるためです。ダムに大量の水が貯めてあれば渇水の心配が少なくなるのと同じです。

 

ここで日銀副総裁を務められてた岩田規久男さんが仰られていたことを引用しておきましょう。

イメージ 4

 

引用 その1 「デフレを止めよ」より (日銀副総裁就任前)

多くの人が誤解しているが、マネタリー・ベースの持続的な拡大によるデフレ脱却は、中央銀行がばら撒いた貨幣を民間がモノやサービスに使うことから始まるのではなく、自分が持っている貨幣を…使って株式を買ったり、外貨預金をしたりすることから始まるのである。

 

引用 その2 「岩田日銀副総裁 講演]2%のインフレ目標を達成する覚悟」)より

ここまでお話ししてきたように、私も含めたリフレ派と呼ばれる人たちは、マネーを非常に重視しています。しかし、現在の貨幣が増えればインフレになる」という素朴な貨幣数量説を主張しているのではありません中央銀行の金融政策レジームと、そのレジームを前提にした投資家による将来の貨幣ストックの予想こそが、現在の金利や予想インフレ率に影響するのです。「銀行の超過準備がいくら増えても、企業への貸し出しは増えていない」との批判はまったく筋違いといえるでしょう。」

 

あと同じく岩田規久男さんが日銀副総裁に任命される直前に出演されたテレビ番組の動画です。

生島ヒロシ氏が司会する番組「未来ビジョン」で、リフレーション政策の説明をする岩田規久男氏。

 

岩田さんの説明ですと、銀行がたくさん積みあがった準備預金を民間企業に融資し,市中のお金(マネーストック)が増えることで景気景気回復がはじまるのではないのです。これまで企業が投資に遣わず貯め込まれていた俗にいう内部留保や個人の貯蓄というかたちで死蔵され眠っていたお金が活発に動くようになることから景気回復の第一歩がはじまります。やがて経済活動が活発化して必要な現金の量が増え始めて足らなくなってくると、ブタ積みになっているマネタリーベースが市中へ流れ始めます。このナッジになるのが中央銀行総裁によるインフレ目標とコミットメントです。

 

池田信夫が下のようなマネタリーベース(青線)とマネーストック(赤線)の増減率を併載したグラフをみせて、日銀がマネタリーベースを増やしてもマネーストックが増えなかったということをブログ記事で書いていました。

ttp://ikedanobuo.livedoor.biz/<br>archives/51879534.html

それに対し菅原晃さんが両者で極端に規模が違うものを同じグラフに書いてしまうことはおかしいと抗議します。

下は菅原さんのブログで使われていたMBとMSの規模の違いを表す説明図です。

菅原さんは次のような例え話をしました。

マネタリーベースと、マネーストックは、体重250キロの巨人(マネーストック)と、小学校3年生(マネタリーベース)のようなものです。ですから、マネタリーベースとマネーストックの増減率を、同じグラフ(土俵)で書くことの詭弁を指摘しました。

 

40人クラスで、1人転校生が増えたら、「2.5%」増ですが、1学年8クラス、全校生徒960人で考えると、「0.1%」増です。
クラスと全校生徒における増減率を、いっぺんに乗せて、「増えていない」とするものです。

 

菅原さんの記事を下敷きに私が書いた説明図とそれを載せた記事です。

 

 

同じ28名の乗客でも定員数が異なる電車とバスでは乗車率が変わってきます。定員が多い電車だと10%の乗車率しかないのですが、バスですと35~40%とまずまずの乗車率になります。ほぼ満席です。

 

菅原さんはマネタリーベースとマネーストックの変化グラフを分けて作成し、両者の規模の差を考慮してそれぞれX軸の値を修正しました。

こうした処理を行うとマネタリーベースとマネーストックの増減率が同じような変化をしていることに気づかされます。

 

あと2016年のことですが田中秀臣さんが面白いツイートをされていました。

この田中さんのツイートは読んだ当時、自分にとって大きな反省となりました。

 

今回は動画の間違いの中で2つだけ指摘しましたが、まだまだひどい間違いが山ほどあります。全部取りあげていたらキリがないのですが、最も深刻なものだけを批判していきます。次回はその続きです。

 

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