「交換法則は証明するものであり、被乗数×乗数=乗数×被乗数 は証明できない」ことについて | メタメタの日

  「単価×個数=個数×単価」は社会の常識であるが、算数では教えない。

 

    教えないどころか、小学校では「個数×単価」の式に×を付けることもある。「交換法則を認めないのか!?」とクレームが上がるところだが、教科書ではちゃんと、小2で掛算を教えるときに交換法則にも気づかせることになっている。

  しかし、この式(一般化すれば「被乗数×乗数=乗数×被乗数」の式)は、交換法則の式とは認められていない。 算数だけでなく、数学でも!

 と言うより、日本では、明治に洋算を学んだときから、交換法則の式は、このような式ではなかった。それが算術(当時の「算数」)での扱いであり、算術が算数となり、用語が変わり(「一つ分の数・いくつ分」が主流となり)、量の考え方が取り入れられるようになっても、算数の中では生き続けてきたと言える。

 

 数学的には、交換法則ab=baは証明する必要がある定理である。

 証明するには、乗法abを定義しなくてはいけない。

 (b+b+…+b)とbをa個累加することをabの定義とすると、aが乗数、bが被乗数であり、baの式は、bが乗数、aが被乗数となる。

  つまり、( )内を被乗数とすれば、交換法則は、a(b)=b(a)であって、a(b)=(b)aではない。これが数学の伝統的な交換法則の理解であった。

  もっとも西洋での最初の理解は「(a)b=(b)a」(被乗数×乗数=被乗数×乗数)であって、これが洋算として日本に移入され、定着して広まった。

  「a(b)= b(a)」(乗数×被乗数=乗数×被乗数)という解釈は、欧米でも20世紀になってから主流になったらしい。

  しかし、どちらにしろ、「a(b)=(b)a」あるいは「(a)b=b(a)」(被乗数×乗数=乗数×被乗数)という解釈は、西洋でも日本でも社会では通用していただろうが、数学の内部でも算数の中でも交換法則として正当化されることはなかったようだ。(交換法則を証明するときに、自然数の場合は、数学的帰納法を使う。無理数では、√2・√3=√3・√2の証明を幾何学的な直観に逃げずに初めて証明したのは、本人の言によればデデキントということになるようだ。)

 

 一方、算数教育では、交換法則は「証明」するものではなく、九九表などから「発見」するものであった(小2の段階で)。発見した交換法則が、個別の数の場合だけではなく、一般的にも成り立つことは、アレイ図などで「説明」される。アレイ図を使う交換法則の説明は、「一つ分の数(被乗数)は、aにしてもbにしてもいいね」だから、(a)b=(b)a である。(あるいは、a(b)= b(a) である。)

 たとえば、10円玉を縦に3個、横に4個ずつ並べたアレイ図による説明を式で書くとすると、30円+30円+30円+30円=30円×4=(10円+10円+10円)×4=40円+40円+40円=40円×3 と等式変形されることになる。つまり、「30円×4=40円×3」であって(あるいは、4×30円==3×40円であって)、どちらにしろ、「30円×4=4×30円」とはならない。(*註1)

 

 かくして、社会の常識の「単価×個数=個数×単価」(一般化すれば「被乗数×乗数=乗数×被乗数」)は、乗法の定義から始めて、算数・数学の交換法則として導けるものではないようだ。(*註2)

つまり、この等式が成り立つことは別に確認する(定義する)必要があるらしい。だったら、社会では昔から通用しているのだから、算数・数学としてもちゃんと正当化して、小学校でもきちんと教えてほしいと思う。

 

 

(*註1)10円玉を1円玉に替えても同じことである。3円+3円+3円+3円=3円×4=(1円+1円+1円)×4=4円+4円+4円=4円×3  しかし、被乗数を無名数にすると、3+3+3+3=3×4=(1+1+1)×4=4+4+4=4×3  となり、途中式を取り出すと、3×4=4+4+4 となっている。これは、3×4の式が「乗数×被乗数」を表わしていることになり、「被乗数×乗数」で定義した式が「乗数×被乗数」の意味にもなることを表わしているのではなかろうか。

(このこと自体は、https://ameblo.jp/metameta7/entry-12570650602.html をめぐって、攻守所を変えて、twitterで、台風@taifu21さん午前0:07 · 2020年3月1日から指摘を受けたことがあり、その時は、私は否定する立場だった。)

 

(*註2)上記(註1)のアイデアを基に、数年前に、「被乗数×乗数=乗数×被乗数」は証明できるのではないかと試みたことがある(「「社会の常識」は数学的に証明できるのか」)が、コメントを求めた紙つぶてさんからは、「数学的に証明出来る筈がないではないか」と一笑に付された。https://ameblo.jp/metameta7/entry-12297154871.html

 今回のこの論考も、紙つぶてさんの指摘から考え続けていることの成果であるが、数学的におかしな記述があったら、私の責任であり、結論部分(小学校でもきちんと教えてほしい)には、紙つぶてさんは、必ずしも賛成ではないかもしれない。

https://ameblo.jp/metameta7/entry-12297786523.html