算数教育メインストリームの宿痾(3回分の2回目) | メタメタの日
 次の講演が盛山さん。(誰にでも好感を与える40代初めの青年教師で、算数教育界のスターのオーラを発していた。ネットでおたくっぽく議論している我々とは違う(苦笑))
 最近(1月)静岡の方の小学校で3年生に行なった研究授業の紹介から始まる。(筑波大附属小の先生は、このように全国の小学校に行ったり、自分のところに全国の先生を招いて模範授業をやって見せ、算数教育のメインストリームを形成しているわけだ。)
 次のような問題を出したという。(単元的には、1桁×何十の計算の導入ということになる。)
「4こ入りのおだんごのパックが□パックあります。おだんごは、ぜんぶで何こでしょう。」
 □の中には一の位の0だけを書き、十の位の数字を書いたボードを裏返しに貼り、この数字がいくつだったらいちばんわかりやすいでしょう、と投げかけると、子どもは1と答えたので、では10パックだったらおだんごがいくつかを求める式をどう書くのかと問うと、4×10と書く子と、10×4と書く子がいた。どっちの式が正しいのかと問うと、それぞれいて、どっちでもいいという子が一人いたという。
 4×10が正しいとする子に、なぜこの式でいいのかと問うと、「4という数字が先に出てきたから」と答えたので、困ったという。「×何十」の計算の仕方が授業の主眼だったのに、その前段で予定が狂った。それで、「では、10パックあって、1パックが4こ入りだったら、10×4の式か」と問うと、そうだ、と言うのでますます困ったという。ただ、ここが主眼ではなかったので、2年生の時に、かけ算の「ことばの式」は、「1つぶんの数×いくつぶん」ではなかったのかと言ったら思い出して、納得したという。

 活字では、かけ算の式の順序にこだわる教え方を何回も読んできたが、肉声として初めて聞くと(実際に生徒を前にしたライブではないが)、こちらがアレアレと困ってしまう。主眼ではなかったので10分ほどで切り上げたというところにツッコミをいれるのは無粋かもしれないが、見過ごせないからツッコム。
 導入時の「ことばの式」は確かに「1つぶんの数×いくつぶん」と教わるが、「かけられる数とかける数を入れかえても、答えは同じ」ということも、まとめ時に教わっている(教わる前に自分で気づく子も多い)。
 3×4でも4×3でも答えは求められるわけで、3×4が「1つぶんの数×いくつぶん」だったら、4×3は「いくつぶん×1つぶんの数」となる。したがって、「ことばの式」はどっちでもいいと思うのが子どもにとっても大人にとっても「自然」であるし、そう思ってもらわないと社会で使われているかけ算に適応できない。
 ところが、「小学校のきまり」では(「きまり」を「約束」と理解している先生はいい方で「真理」と思っている先生もいるらしい)、かけられる数とかける数を入れかえても良いのは計算のときであって、式については「ことばの式」どおりに書かなくてはいけないという理屈になるらしい。
 しかし、計算と式をどこで区別するのか、横書きが式・縦書きが計算か、1桁×1桁のかけ算の計算を縦書きでやるか。
 こんな理屈を言っていると、「長方形の面積を求める「ことばの式」は「たて×横」だから、計算は「横×たて」でやってもいいが、式は「たて×横」の順序どおり書かなくてはいけない」と、かつてどこかの学校の父母集会で主張して父母を唖然とさせたという体育の先生を批判できるのか、と思ってしまう。(現在は、「ことばの式」として「たて×横」と「横×たて」の2通りを書くようになっているから、長方形の面積については問題解消のはずだが、併記すればよい、という問題ではない。)

 ということで、盛山さんは、4×10を「正しい式」と子どもに納得させて、この式の答の求め方に移る。
 ×何十の答の求め方が、授業の中心だったわけだが、その導入が×10ではまずいだろう。なぜなら、4×10を10が4こと解すれば、「10が4こで40」ということは小1の数の表し方(命数法)で習っているはずだから。
 しかし、盛山さんは、一人の生徒が、4×9=36 36+4=40 と書いているのを採用して、4×10=40 とする。あくまでも、4×10は4が10こという理解しか許さないのだ。だから、×9まで習っている九九の4×9=36を利用して、それにもう一つ4をたすというという考え方しかダメなのだ。
しかし、かけ算の交換法則(4×10=10×4)を小2で習った生徒に、交換法則の利用を制限することにどんな意味や価値があるのか。
 だいたい盛山さん自身が、この4×10の話と前後して、6×4が24(にじゅうし)か27(にじゅうしち)か音が似ているためにわからなくなった生徒に、生徒の既習事項をもとに問題解決をはかる3つの方法として、
 ① 6×3=18 18+6=24
 ② 6×4=6+6+6+6=24
 ③ 6×4=4×6=24
を挙げているが、③は交換法則の利用である。

 さて、「4こ入りのおだんごのパックが□パックあります。おだんごは、ぜんぶで何こでしょう。」の問題に戻ると、□の中の数は一の位が0だったが、裏返しになっていた十の位の数字は3と種明かしされ、4×30の求め方に移る。(これが授業の主題だった)
 生徒に発言を求めると、「4×3=12に0を付けて120」と答える生徒がいたので、0を1個付けることは10倍することだと説明する(10倍するときは0を右端に1つ付ければよいことは、小3の2学期に既習事項だが)。
4×30=4×3×10
   =12×10
   =120
 このやり方でよいことを、黒板に図(教育出版『小3下』54頁)のようにボードを30枚貼って、12と10がどの部分のことかを確認させる(右図のように)。
盛山

 次に、4×10×3=40×3
         =120
でもよいことを、左図のように確認させる。
 要するに、4×30というかけ算は、生徒にとって初めてのタイプのかけ算となるが、上記のように、すでに知っていることを利用すれば求められるという授業であった。