入れ子構造としてのかけ算 | メタメタの日

「りんごが3個,みかんが2個,全部でいくつあるか。」という問題を,

 3+2=5と立式して答を得る前に,

●●●●●●●●●●

 とイメージすることは,全然おかしくないし,教科書でも,■などのブロックを使って説明している。

 しかし,これが,「りんごが3個ずつ2枚のお皿にのっている。りんごは全部で何個か。」という問題を,

 3×2=6と立式する前に,

●●●×●●●●●●●

とイメージすると違和感が生じるし,教科書でもそのような説明はしていない。

 

りんごやみかんを「具象」,3や2の数を「抽象」というのに対し,●や■などを「半具象」ということがある。数教協的にいえば「シェーマ」ということになる。数教協では,半具象(シェーマ)として正方形タイルやかけわり図などを使うし,方程式を使えない受験算数では,線分図や面積図などを使うが,これも半具象ということになるだろう。



具象は,「モノ」そのものだが,半具象は,モノの大きさ(量)としての面だけを抽象したもの,数は,その量をさらに抽象したものとなるだろう。

「りんご3個とみかん2個」を,「●●●●●」という半具象でイメージするときは,りんごやみかんの質の違いは捨象して,(果物の)個数という量をイメージしているし,「3+2=5」となれば,3という数(記号)と2という数(記号)に5という数(記号)を対応させるある演算という理解に至る。しかし,3+4=6という式を見た瞬間に間違いと思える(違和感がある)のは,数を単なる記号ではなく,量の感覚でもイメージしているからだろう。

このように数に量のイメージが残ることは悪いことではない。問題は,量から数へ抽象化できないことであり,数の演算の「意味」を常に量に還元して理解しようとすることだろう。(たとえば,除数の逆数をかけるという「分数のわり算の仕方」をタイル図や線分図で説明しようとすると,かえって分かりにくくなる。

http://ameblo.jp/metameta7/entry-11247416036.html



加減の理解に,おはじきやタイルの半具象が役立つことは,正負の数の場合についても言える。http://ameblo.jp/metameta7/entry-11155182308.html  思えば,古代中国の算木も,正負の数を赤黒の算木で表すシェーマであった。



しかし,3×2の乗除を,●●●×●● と表すことは「おかしい」と私たちの感覚は反応する。

「3×2」という式自体は,抽象的な数の乗法を表しているが,それを量のかけ算に還元して解釈しようとするとき「●●●×●●」と表すのはおかしいと感ずるのは,「3×2」の式を量として理解するとき,3が1とするものと,2が1とするものとは違うと私たちが知っているからだろう。

それは,「りんごが3個ずつ」の3,「2枚のお皿」の2だから,りんごの1とお皿の1が違うという質の違いではない。質の違いを言うなら,足し算の場合でも,りんごの1とみかんの1も質としては違うが,量としては同じとみなして,りんご3とみかん2の和を,●●●●●と表すことに違和感はなかった。

しかし,かけ算の場合は,●●●×●●において,●●●の●と,●●の●とは,量として違う。

もし,●●●×●●が,「3個ずつ2つ」を表している(●●●●●●という累加)なら,×記号の前の●●●と後の●●は,1とするものが違う。後の●は,前の●●●1とみなした●だ。このように量として1とするものが違うのだから,その違いをはっきりさせるには,●●●×●●は,●●●×     とでも表した方がよい。

そして,「りんごが3個ずつ2枚のお皿にのっている」ことを「量」として表わすなら,

●●●×     ●●● ●● あるいは,

     ×●●●●●● ●● となる。



この表式を見れば,かけ算は入れ子構造になっていることがわかる。

16世紀フランスのヴィエトは,現在なら「3B×A」あるいは,「3BA」(Aが未知数,Bが既知数)と書くところを「B3inA」というように乗号×を「in」で書いたし,イギリスのオートレッドは,1631年の本で乗法を「2つの数をinまたは×で結ぶ」と書いた(片野善一郎『数学用語を記号ものがたり』1819頁)。明治32年(1899年)に日本で翻訳された『チャールス・スミス氏代数学講義録並例題解』(4)には,「符号×ハいんつート読ム即チ乗号ナリ」とある。

 かけ算の「3 in 5」という表式,あるいは,「3×5」という式を「3 into 5」と読んだということは,欧米では,かけ算は入れ子構造という理解があったのでしょう。




(補注)

 なお,3×2を,●●●×●●と,被乗数・乗数を同じ●で表すことに違和感はあるが,ソロバンで,乗数も被乗数も同じ珠で表すことに違和感がないのは,そういうものだと先入観ができていることもあるし,珠を抽象的な数として理解しているということでしょう。


2」を●を使って量で表すと,

●●●

●●●

あるいは,

●●

●●

●●

となることを,かけ算の導入時から教えるのが,現在の中国の教科書であり,日本では数研出版の「非検定」教科書であることも,すでに触れた。

http://ameblo.jp/metameta7/entry-11162549314.html

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