『算数・数学教育つれづれ草』と筑波大附属小算数部 | メタメタの日

 「かけ算の順序」については,ウェブと実社会,及び数学者の間では否定されていますが(「否定的」とか「否定派が多い」という微温的な物言いは避けます),印刷された出版物を見渡すと「順序」を主張するものが圧倒的です。つまり,小学生向けの参考書・問題集の類と,小学校の先生のための本の大半が「かけ算の順序」を主張しています。

 算数教育界という閉ざされた空間が「ガラパゴス」的進化を遂げているのです。

「わだいのたけひこのざっき」http://d.hatena.ne.jp/takehikom/ で触れられていますが,出版物の中で,かけ算の順序を否定しているものは,遠山啓の1972年の論考「6×44×6論争にひそむ意味」(『遠山啓著作集』所収),佐藤俊太郎編著『算数・数学教育つれづれ草』(2010年,東洋館出版社)と拙著・高橋誠『かけ算には順序があるのか』(2011年,岩波書店)ぐらいです。

 このうち,遠山の論考は,トランプ配りを考えれば,どちらの数も「1あたり」にできるというもので,「いくつ分」×「1つ分の大きさ」の立式を認めていない,という限界がありました。

 『算数・数学教育つれづれ草』4647頁では,現行の『学習指導要領解説』(平成20年)は,「1つ分の大きさ」×「いくつ分」の式も,「いくつ分」×「1つ分の大きさ」の式も認めている,と解釈しています。

また,「意味が違うのに同じ式でいいの?」108109頁では,たし算の添加・増加を意味する式も,合併を意味する式と同じく,「35」と表現しても「53」と表現してもよい,と主張しています。
 この『算数・数学教育つれづれ草』で知ったのですが,かけ算の順序が最初に問題化したのは,1972年の朝日新聞の記事ではなく,その前に,1965年ころ,大阪・神戸の帰国子女の親たちが,「5円の品3個の代金の立式は,3×5ではダメなのか」と問題にしたようです。http://ameblo.jp/metameta7/entry-11137983364.html  で該当頁を引用紹介しました。)


 また,「わだいのたけひこのざっき」http://d.hatena.ne.jp/takehikom/201201  で知ったのですが,筑波大学附属小学校算数研究部の雑誌「算数授業研究」の次号が,かけ算を特集し,「かけ算とは何か」「かけ算の指導の歴史はどうだったのか」「かけ算指導についてどのような考え方があるのか」などについて,バイブルのような存在になることをめざすということです。現在は,順序派の大牙城たる,筑波大附属小算数部が,どのような見解を示すのか,大いに期待が持てます。