江戸時代にお茶を混ぜる問題はありました。
『日本士農工商 智恵車大全』という正徳元年(1711年)に刊行された諸商売の算法のための本に載っていました。この本の序文では、「算は智恵をみがく砥也。人此道をおろそかなれば商売に利なし。尤修行すべきは算学なり。・・・今此書は専(もっぱら)初学のためにして、・・・諸商売の部門に分け、・・・一切家業の算用掌をさすがごとし。・・・故(かるがゆえ)に此書を算法智恵車と号(なづ)く。寔(まこと)に初心算学の至宝たり。・・・」と自賛しています。
両替屋、米屋、材木屋、酒屋、醤油屋、綿屋、薬種屋、質屋などの商売で必要な計算を説明した後に、葉茶屋がきます。葉茶屋の後には、塩屋、木綿屋、呉服屋、問屋、俵物問屋、古道具屋、樽屋、屋根屋、左官、油屋、大工、石屋、薄屋、と続きます。
葉茶屋以外では、商売で必要な主な計算は、近世ヨーロッパで三数法で呼ばれた、現在では比例式を立てて解く問題です。
葉茶屋の計算に付いているタイトルは、「葉茶屋上中下合まはしさん用一まき」です。「上中下のお茶の混合算用一巻」ということでしょう。
その7問目に次の問題があります。
「八分がへの茶と、壱匁壱分かへの茶と、等分に合する時は、何程に成と問。」
重さ1斤(250目)の値段が銀8分の茶と銀1匁1分の茶を等量混ぜた茶の値段はいくらかという問題です。答と解き方(術)は次の通り。
「九分五り也。 術云、八分に壱匁壱分をくわへて、壱匁九分と成を、二ツに割也。」
10問目には次の問題があります。
「五分かへの茶と、壱匁がへの茶を合して、六分がへの茶にする時には、五分がへの茶何分、壱匁がへの茶何分と問。」
重さ1斤の値段が銀5分の茶と銀1匁の茶を混ぜて、銀6分の茶をつくるには、どういう割合で混ぜたら良いのかという問題です。問題文で紛らわしいのは、同じ「分」が、重さの単位(1匁=10分)であるとともに、割合(1分=10%、五分五分は等分割)としても使われていることです。さらに言えば、重さの単位(斤、匁)は、茶の重さを表すとともに、銀の重さで値段も表すのにも使われているわけです。
答と解き方(術)は次の通りです。
「答云。壱匁がへの茶二分。五分がへの茶八分。 術云、五分がへの茶八分に五分をかけて、四分と成へ、壱匁がへの茶二分をくわへて六分と成也。」
答は合っているが、出し方(術)は、私には分からない。
「五分がへの茶八分」の8分がどこから出てくるのか説明がない。天びん法や混合法や面積図などから、8分は出せるが、この本ではどうやって出したのか、説明がない。
また、「分」の二重の意味を使い分けているが、これは正しいのか?
「五分(値段)がへの茶八分(割合)に五分(値段)をかけて、四分(どっち?)と成へ、壱匁(値段)がへの茶二分(?)をくわへて六分(?)と成也。」
単位を変えてやってみましょう。
「問題。100g500円のお茶と100g1000円のお茶を混ぜて、100g600円のお茶を作りたい。どういう割合で混ぜたら良いか。答。100g500円を80%、100g1000円を20%。」
『智恵車大全』の「術」だとこうなる。
「500円のお茶80%に500円をかけて400円となる。1000円のお茶200円を加えると600円になる(から、1000円のお茶の20%を加える)。」
こんな調子の術が付いた問題が、この後7問続いている。
算数的には「術」に疑問が残るが、とにかく、江戸時代にも「混合算」の問題はあった。
それは、お茶を混ぜる問題であって、お酒やお米を混ぜることは、18世紀初めには無かったようだ。
さらに文献に当たってみる必要があるだろう。