Googleその後 | メタメタの日

mixiの「ロジカル・シンキング」の「google入社試験が解けません」トピは、すでに400発言を超えた。わたしも発言を続けているが、以下は、書きかけにしていたら、発言の機会を逸してしまった文章です。いつか、議論が立ち戻って発言するかもしれないが。)

http://mixi.jp/view_bbs.pl?id=35529910&comment_count=427&comm_id=161710


Googleの入社問題を、もうちょっと検討してみて、面白いことに気がつきました。

この問題は、「帽子の色問題」と同じタイプの問題と理解されています。「帽子の色問題」は、「muddy children puzzle」とか「common knowledge」と分類されるようです。(「common knowledge」については、三浦俊彦『心理パラドクス』第28問

http://members.jcom.home.ne.jp/miurat/puzzl3-y.htm

このタイプの問題の歴史上の初出は、267発言でも触れたように、ガモフ&スターンの『数は魔術師』1999年、原著は『PUZZLE-MATH』1958年)です。

「帽子問題」があまりにも有名なため、それを知っていてGoogle問題を見た人は、当然、「帽子問題」のGoogle版と思うわけです。(私のように、「帽子問題」だと思った上で、以前の発言で答を間違えた愚か者もいますが・・・汗)

ところが、Google問題は、ガモフ&スターンの問題を典拠にしているはずですが、ちょっと問題設定が違っていました。


「帽子問題」とは、一般に次の条件を前提にしていると定式化できると思います。

①1人以上m人の構成メンバーからなる集団があって、各メンバーは同じように論理的に正しく思考する。【メンバーの思考能力】

②集団内にn人の有徴メンバーが存在する。(nは、1以上m以下)【有徴者の存在】

③各メンバーは自分の徴の有無は見えないが、他人の徴の有無は見え、かつ、他のメンバーがどのように見ているかは分かる。つまり、徴の有無は、本人を除いて、「周知の事実」「common knowledge」である。【有徴者に対する認識】

④集団外から、「有徴者が1人以上存在する」という真実の宣告がなされる。【有徴者の存在の告知】

⑤自分が有徴者であることが立証できたメンバーはある行動をとらなければならない。【有徴者の義務的行動】

⑥有徴者が取るべき行動を取ったかどうかは、一回ごとに集団で確認される。【行動の段階性】


 通常の「帽子問題」では、以上の①から⑥までの条件の内、①から③までを大前提として、④⑤が宣告されて、ゲームがスタートし、⑥の段階ごとに進行するわけです。「浮気問題」では、④⑤が宣告された日が第1日目とカウントされます。


 ところが、Google問題は、日本語の訳文だけでなく、英語の原文も分かりにくいのですが(原文は45番発言にあります)、次のような変更点があるようです。

 先ず②の有徴者の数n人が、ゲームスタート時に、解き手に明示されていない。

 そして、もっと重大な変更点は、⑤の有徴者の取るべき行動が宣告されてからゲームがスタートするのではなく、大前提として、各メンバーは取るべき行動をとっくに知っているのです。ゲームスタート時点で宣告されるのは、④の有徴者が1人以上いることだけなのです。


 通常の「帽子問題」では、「有徴者の存在」と「有徴者の取るべき行動」の2つが宣告された時点でゲームが始まります。つまり、宣告された行動を他のメンバーが取るか取らないかの事実が、新しい情報として付加されるわけです。

 しかし、Google問題では、取るべき行動が、ゲーム開始時点以前から掟として布告されている。今さら、有徴者が1人は存在するなどという「周知の事実」が宣告されてもゲームは始まらず、何も起こらないのではないか・・・、当然の考え方です。


 通常の「帽子問題」では、有徴者の数n人が「問題の外部」の解答者に与えられています。「問題の内部」の集団の各メンバーには、有徴者の数は、自分が見ている(n-1)人なのか、自分も含めたn人なのかは分かりません。(n-1)人か、n人か、That is the question.なのです

 ところが、Google問題では、有徴者の数が「問題の外部」の解答者と「問題の内部」の妻たちに与えられているのかどうか。

Every man in a village of 100 married couples has cheated on his wife.

この現在完了形をどう解釈するのか。Every manは浮気をし終えているのでしょうか。

そして、次の文章の現在形はどう解釈するのか。

Every wife in the village instantly knows when a man other than her husband has cheated, but does not know when her own husband has.

 Every wifeは、自分の夫を除くEvery manの浮気をすでに「知っている」のか。「知るものだ」という真実を述べているのでしょうか。

 英語の解釈にはまったく自信がないので、通常の「帽子問題」と同じように、すでに100人の夫は浮気をしており、各妻は99人の夫の浮気を知っていると解釈しましょう。すると、夫の浮気を知った(立証した)妻は夫を殺さなくてはいけないという掟も、その状態のときにすでに存在しているのです。掟は、女王の宣告以前から存在しているのです。女王の宣告は、「少なくとも1人の夫は浮気をしている」と、99人の夫の浮気を知っている妻たちに告げるのですが、そんな宣告は先刻承知なのです。これでゲームが始まるでしょうか?ゲームが始まるとしたら、女王の宣告前から始まっていないとおかしいのではないか。・・・当然の疑問です。


 女王の宣告前の状態を考えてみましょう。「夫の浮気を知った(立証した)妻は夫を殺さなくてはいけない」という掟が存在しています。ある夜、初めて、n人の夫が浮気をします。翌日妻たちはその事実を知ります。(“instantly knows”を、このぐらいの時間を置いたものと解釈します。まさか“insertの瞬間に“instantly knows”はないでしょう。それでもいいけど・・・)つまり、浮気をされた妻は、(n-1)人の夫が浮気をしたこと、浮気をされなかった妻はn人の夫が浮気をしたことを知ります。しかし、浮気をされた妻は、浮気をされたかどうか分かりません。実際に浮気をした夫の数が(n-1)人なのか、n人なのか立証できません。浮気をされなかった妻も、実際に浮気をした夫の数がn人なのか、(n+1)人なのか立証できません。

 こうして、夫たちは次々に浮気をし、翌朝、妻たちはそれを知っていきます。あぁ昨夜はマイクが浮気をしたとマイクの妻以外が知り、夕べはジョンが浮気をしたとジョンの妻以外が知り、今度はビルかとヒラリー以外が知って、とうとう100人の妻がそれぞれ99人の夫の浮気を知ります。そこに女王がロンドンからやって来て、「この村では少なくとも1人の夫が浮気をしている」と宣告しますが、「してますけど、ナニカ」という反応以上を妻たちから期待できるでしょうか? 掟は昔から存在していたのです。何かが起きていたら、女王の宣告前に起きていないとおかしいのではないか?・・・当然の疑問です。

 この疑問については後で、もう一度考えるとして、通常の「帽子問題」の場合で考えてみましょう。


掟が与えられていない状態で、とうとう100人の妻がそれぞれ99人の夫の浮気を知る状態になっています。女王が来て、「この村では少なくとも1人の夫が浮気をしている。自分の夫の浮気を知った(立証した)妻は、知った日の夜に夫を殺さなくてはいけない」と宣告します。

 この宣告の前半「少なくとも1人の夫が浮気をしている」という告知は、99人の夫の浮気を知っている場合にも、必要なのでしょうか。

段階を踏んで考えていきましょう。

(1)100人の夫の内1人だけが浮気をした(黒の)段階。

 浮気をされた妻(被浮気妻)Aは、黒を見ないが、「少なくとも1人の夫が黒」の告知があるから、A夫の黒を知り、1日目の夜に殺す。「1人黒」の告知は必要。

(2)100人の夫の内、2人だけが黒の段階。

被浮気妻をA,Bとする。AはA夫を白と仮定すると、Bは黒を見ず、(1)の場合と同じになり、「少なくとも1人の夫が黒」の告知から、B夫の黒を知り、1日目の夜に夫を殺すはず。しかし、そうならなかったのは、Bが1人の黒(それはA夫の黒以外ありえない)を見ているからということが2日目の朝にAに分かる。B夫についても然り。「少なくとも1人黒」の告知は必要。

(3)100人の夫の内、3人だけが黒の段階。

被浮気妻をA,B,Cとする。Aは、B,C2人の夫だけが黒だとすると、上記(2)と同じ状況になり、2日目の夜に、2人の夫が殺されるはずだが、そうならなかったのはA夫が黒だからと3日目の朝に分かる。ただし、Aは、1日目の夜には誰も殺されないことは、BはC夫の黒を、CはB夫の黒を見ているからと知っている。上記(2)と同じ状況になるのだから、「少なくとも1人黒」の告知は必要。

(4)100人の夫の内、4人だけが黒の段階。

被浮気妻をA,B,C,Dとする。Aは、B,C,D3人の夫だけが黒だとすると、上記(3)と同じ状況になり、3日目の夜に、3人の夫が殺されるはずだが、そうならなかったのはA夫が黒だからと4日目の朝に分かる。ただし、Aは、1日目、2日目の夜には誰も殺されないことは知っている。上記(3)と同じ状況になるのだから、「少なくとも1人黒」の告知は必要。

後から、③1人以上の夫が浮気を浮気をしているという宣告を受ける。


(未完)