ヒトミは、オレの行きつけのダイニングバー

『ポルコロッソ』

のママで




本人いわく



「正統派のオカマ」



…らしい



なにが正統派なのか?

ノンケのオレにはさっぱりわからないが…


ヒトミの主張によると



① 特に女装はしない
② タマアリ&サオアリ

③ 心は限りなくオンナ


これらが条件らしい




だが、『ポルコロッソ』は、いわゆるオカマバーではなく

美味い酒と美味い料理が楽しめる得難い店なのだ



オレは密かに、ヒトミがこの街イチのシェフだと思っている



一度、ヒトミに
どこで料理を習ったんだ?


と、聞いたら


17の頃、初めて同棲したオトコが
結構、名の通ったレストランのオーナーシェフだったらしく


料理とソッチのワザを一緒に教えこまれた、と

懐かしそうに言っていた



オカマに歴史アリだ


(この章続く)


ケンの後ろ姿を見送りながら

オレはハンドルから手を離して、保留ランプが消化されるのを待った



パーラメントに火を付けて、深く吸い込む


本日18本目の煙草はいがらっぽくて、1/3を灰にしたところで揉み消した



左手のグランドセイコーに目をやると

20:20


オレは立ち上がり、シマ奥のレストスペースへ向かう



オレが、レストスペースのソファーに腰を下ろしたのを目敏く見つけて
コーヒーレディのミキが近寄ってきた



オレのような常連は彼女達にとって、確実に売り上げが見込める上客だ



ミキがニコニコしながら話し掛けてくる



「ジンさん、この時間に休憩ですかぁ?」



確かに、この時間帯にオレがレストスペースに居ることは稀だ


「いや、たまにはミキの上がる時間に合わせて、ゴハンにでも誘ってみようか、と思ってさ」



「またぁ~ジンさん、口ばっかりなんだからぁ~」



この街の大学に通っている、というミキは、目が大きくて派手な顔立ち

コーヒーレディの制服のミニスカートが、格好の良い足をなおさら魅力的に見せている


客からの誘いも多いらしいが、意外に?堅いという噂だ


そのうち噂の真相を確かめてみるつもりだ



「10回に1回くらいは行動に移すようにするよ」



「せめて、3割はマークして下さいね」



「厳しい目標だな、それは来シーズンの課題にして、今はコーヒーを一杯」



「ありがとうございまぁす、ミキスペシャルをお持ちしますね~」



ミキが跳ねるような足取りで、コーヒーをたてに行くのを見送りながら、オレは携帯を取り出した



ヒトミに電話してみるコトにする



(この章続く)


「ケン、今日は金曜日だろ?

花屋が金曜の夜にパチ屋に居たら、10連荘しても元は取れないだろ?」



ケンが苦笑いしながら頷く



「その通り
今日は打ちに来たんじゃなくてさ


さっき『ポルコ・ロッソ』に、配達に行ったらさ


ヒトミさんからジンさんへ伝言頼まれたんだよ


ジンさん、この時間は携帯見ないからって」



「ヒトミが?何だろ?」



「何でも、ジンさん訪ねて今日、店に来る人がいるんだってさ

だから、出来れば早めに店に顔出せってさ」


「へ~?
誰だろ?

ケン、聞いてないのか?」



「知らないよ~


じゃ確かに伝えたよ


…それにしても…

元は取れなくてもいいからさ~


10連荘くらいしてみたいよ」



ケンは、オレの台上カウンターの当たり回数を見て

溜め息をひとつ



それじゃ、と、手を挙げて



ホール出口へ、足早に歩いて行った




(この章続く)