竹宮ナオは、黙ったままカウンターから降りてオレの横に立った




オレが彼女の方に椅子ごと向き直ると




竹宮ナオは、真っ直ぐにオレの目をみたまま




自分の背中へ両手を廻して




着ているワンピースのファスナーをゆっくりと下ろし始めた



オレの目から視線を外さないまま…




ゆっくりと細いウェストまでファスナーを下ろすと…





呆気にとられて彼女の突飛な行動を見ていたオレは、やっとそこで我に返った





「やめろ」




少し声が上擦っていたかもしれない




オレの声を聞いて、竹宮ナオは手を止める




オレは、ひとつため息をついて左右に頭を振る


陳腐な仕草だが、そうでもしなきゃ理性が飛んじまう




胸の前でワンピースを両手で抑えた格好のまま、押し黙っている竹宮ナオに声をかける





「アンタの目的がナニかは知らないが、とりあえずファスナーを上げて座れよ

この店は美味い酒と料理を楽しむ場所だ

ストリップは、メニューに載ってない」


オレがそう言うと


それまでコトの成り行きを黙って見ていたヒトミは笑いながら



「あら、アタシは構わないのに~

ジンちゃんがそんなセリフを言うとはね

一応、店の経営者としてはお礼を言うべきかしら?」


ヒトミは竹宮ナオの方を見て


「ジンちゃんは、ああ見えて意外とシャイだから、今度は二人っきりの時にするコトね


さあ、ジンちゃんに言われた通り、服を直して座りなさいな」



ヒトミの言葉を聞いた彼女は、それまでの思い詰めたような表情に、少しだけホッとしたような微笑を浮かべると
コクリと小さく頷いた



(この章続く)


だが…




リアルな存在に感じられても


それがそのまま、友好的な関係へと発展するか?

と言うと


それは状況に拠る




オレとミキとは、客とパチ屋のコーヒーレディの間柄



それ以下でも以上でもない



だが、あの店がパチプロとしてのオレにとって、居心地が良い店のひとつなのは


ミキとの他愛もない会話や、屈託の無いミキの笑顔に拠る処も無いとは言えない




そのミキに負けたくない、という、今日会ったばかりの美しい女




なるほど



苦笑するしかない状況とはこういう時なのか




オレはしばし、頭の中で竹宮ナオに言うべき言葉を考えた




「アンタの置かれている状況と、ミキへのライバル心はよくわかった


だが…


正直、オレには関係ない

オレは他人の人生の岐路に責任など持てないし、持つ気も無い


ましてや、アンタが自分の未来を委ねるのは…


人じゃなく馬だ


なあアンタ知ってるかい?


予想なんてモノは逆から読むと





う そ よ





なんだぜ


どんな馬券師でも外すし、ギャンブルに絶対なんてない


そんなモノ、どうしてもやりたきゃ
アンタが目を瞑って馬柱に鉛筆落として決めればいい


案外、その方が中るかもな」




そんなオレの言葉を聞いた、竹宮ナオの反応は



オレが考えてもいない突飛なモノだった


(この章続く)


ミキに負けたくない、と言った竹宮ナオの表情は
それまでとは打って変わったかのように、暗い影が差していた




「昔から…高校の時からそうなんです…
わたしは何をやってもミキさんに勝てなかった…

勉強もスポーツも……
男の子からの人気も…

いつもいつも…みんなの中心にはミキさんがいた…


高校を卒業して大学に入り、女優を目指したのも、ミキさんを今度こそ追い抜いて、わたし自身のコンプレックスに決別するため…
それが大きな理由だったんです…

それなのに…また………」




竹宮ナオは、そう一気に吐露すると
ギュッと両手の拳を握りしめた





聞いたオレの方が戸惑ってしまったのは、仕方ないコトだろう





ただ…




良しも悪しきも、他人の心を動かすには、その人の正直な心情の吐露


コレに優るモノはない



美人過ぎて、どこか現実感の薄かった彼女が
ミキへの想いを吐き出すコトで



オレの中で、リアルな存在へと変わったのは確かだった







だが……





(この章続く)