日本チームが金メダルを一つも獲得できないまま世界水泳が終わりました。
萩野公介選手は、思ったような泳ぎができず、キャプテンとしてプロスイマーとして不甲斐ないと泣き崩れる姿がテレビでも報じられていました。
小さい時から切磋琢磨している瀬戸選手でさえ、萩野選手の泣いた姿は見たことがなく、とても驚いたと言っているので、よほどのショックを受けたのでしょう。
私には、萩野選手の泳ぎが、怪我をしてから変わったように思えてなりません。
怪我をする前の萩野選手の泳ぎは、高いボディポジションが特徴でした。
真っ直ぐに細く伸びた身体の中心から腕や脚を動かす、力みのないダイナミックな泳ぎも特徴でした。
実際、怪我をする前の萩野選手は、レース前に「脱力がテーマです」と言っていました。
ところが、骨折をしてからは、タイムを取り戻そうという意識が強いのか、力んだ泳ぎになってしまっています。
リハビリのやり方に少し良くない部分があったのではないかとも思ってしまいました。
世界水泳では、肘周りをアイシングしている様子も映っていました。
野球選手の肩ほど酷使はしないはずなのに、水の中で泳いだ後にアイシングというのは、世界のトップスイマーでも見た事がありません。
泳ぎはどんどん脱力して効率を求める方向に動いていて、今回５０ｍ背泳ぎで惜しくも銀メダルに終わった古賀純也選手も、プッシュオフで力を入れることはないと言っています。
※ 水泳での肘周りの筋肉の負担は、野球同様ひねりの力の方が大きいようです。
プッシュオフは手のひらで真っ直ぐ後ろに押すより、スカーリングで横に払うようにする方がスピードは出ます。
萩野選手の怪我をする前の泳ぎは、このスカーリング効果をうまく使った効率良い泳ぎでした。
ところが怪我の後は、スカーリング効果がうまく行かなくなっていて、そのせいで上下動も大きくなっています。
私は、健康スイミングを数年続けて、すっかり力を無くしてから、黄色のストロークメーカーでプルを強化しようとした時、ある程度のスピードで長く泳ぐと、前腕の橈骨と尺骨が剥がれて肘がバラバラになるような痛みに襲われたことがあります。
リアスカルで前腕を回しながら水を押す時にかかる力は予想以上でした。
それで、ダンベル回しを始めたわけです。
一回の動きではそれほど負担はないのですが、一回の練習では、それを何百回も繰り返すわけですから、いつも使わない小さな筋肉への負担はたいへん大きくなるわけです。
萩野選手は大会一ヶ月前の練習映像でも、肘周りのケアトレーニングとして、私が使っているダンベルよりもっと軽い、小さなダンベルを持って、肘を固定して曲げ伸ばしをしていました。
水泳は回旋運動で成り立っているということを、トレーナーは考えていないのでしょうか・・・？
そして、キック力が以前より落ちたので、それにより得られる速度が落ちただけでなく、身体を真っ直ぐに高く保つ能力も失っているように見えました。
水上に身体を真っ直ぐに保つ筋肉は、陸上のスタビライゼーションでは鍛えられない全く別の筋肉です。
大橋選手を高校まで指導したコーチの言う、「世界一楽な練習」のようなことを繰り返さなければ得られません。
腕を骨折したということは、下半身のトレーニングに集中するための最適な条件なのですが、萩野選手はそれを陸上トレーニングなどで代用したのかも知れません。
世界で初めて１００ｍ自由形で47秒台を出したホーヘンバンド選手は、直前に腕を骨折し、大嫌いなキック練習ばかりをすることになり、そのお蔭で大きくタイムを伸ばしたと言われています。
私も手首を骨折して手術をした後、医者にはギブスから出ている部分はできるだけ動かすように言われていたし、骨を固定するため、外から鉄棒を刺したままでいる時は無理でしたが、鉄棒が取れ、傷が癒えてからは、練習会に出て、腕の痛みが癒えるまでの2ヶ月くらいは、全てキックでこなしたので、そこからキックで楽に速く進めるようになり、キック泳ぎに変わりました。
また、傷んでいない左腕だけで泳ぐことも取り入れたので、20年近く経った今でも、利き腕でない左腕の方が水をうまく捉えられ、正確に押すことができます。
萩野選手は、元々特にクロールなどで、左肩がガクンと落ちて、キャッチが甘くなり、左右のリズムにズレを生じていて、それを平井コーチが問題視していたわけですから、手術後傷口がふさがって、水に入れる状態になったら、キックだけや左腕だけの泳ぎのトレーニングを重ねれば、骨折がプラスに働いていたのではないかと思ってしまいます。
萩野選手の涙は、単にタイムが上がらないということではなく、自分本来の効率良い泳ぎが取り戻せない理由がわからず、努力の行き場を失った焦りから出たものではないかと思います。
萩野選手の場合は、自分でトレーニングメニューを組み立てているわけではありませんから、コーチやトレーナーがこういうことに少しでも気づいて、トレーニングの内容を根本から考え直すことを切に希望します。
そして、萩野選手のトレーニング映像でもわかりましたが、インナーマッスルは小さいから、伸縮力の弱いセラバンドで鍛えるという間違った（？）考え方にまだ基づいているようです。
インナーマッスルがセラバンドほど弱かったら、ちょっと運動したら引きちぎれてしまうだろうということは、ちょっと考えたら素人でもわかりそうなものですし、実際にセラバンドを使ってトレーニングをしても、インナーマッスルにちっとも響かないということはトレーナー自身がやってみればわかるはずです。
トレーナー自身がインナーマッスルの感覚に極めて鈍感であったら別ですが・・・
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