絶対に売ってはいけないゲーム | シン・メンズビギ横浜店ブログ

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「GM!マズいです!

間違って登録ボタン押しちゃいました!」


若いくせにいつも冷静沈着な…

というよりも、

いつも極めてリアクションが薄い

研修生のハセコーが明らかに動揺していた。


私が会心のギャグを放った時も

せめてそれぐらいのリアクションは

して欲しいな…

などと私は心の中で思いながら、


「ん? どうした?」


と尋ねると、

どうやらお店のPOSレジを

誤って閉めてしまったらしい…。

一度レジを閉めると、

当日はそれ以降お会計ができない。

最近のPOSレジはずいぶん賢い分、

融通が全く効かないのだ。

高度な現代社会アルアルである。


時計を見るとまだ20時だ。

閉店時間は20時30分だから、

あと30分はある。


私は長年の勘とその日の流れから

もうこれ以上何も売れないだろうと

予想したので、


「大丈夫だよ。ここから何か売れたら奇跡だ。万が一にも何か売れそうになったら、“こちらの商品は明日から全国一斉発売です” とでも言えばいいじゃん」


などと、

本気とも冗談ともつかないことを

意気消沈しているハセコーに言った。


べつにハセコーを勇気づけようと

したわけではなく、

こんな時の私のギャグに対する

ハセコーのリアクションを

確かめたい気持ちがあったのと、

実は私にも同じ体験があったからだ。



私の場合は18時過ぎだった。

閉店まで2時間以上もあった。


私は残業が大嫌いで、

閉店の合図とともにすぐに帰りたい。

そもそも営業時間が長過ぎると思う。

なんなら私にとって開店とは、

閉店のための準備とさえ思う。

だから閉店準備はとにかく早め早めで、

レジ閉め作業は最後の登録ボタンを

予め押すだけにしていることが多い。

これならいざお会計となっても、

いつでも元に戻ることができる。


ところが…

その日に限って

最後のボタンを押してしまったのだ…。


さすがに焦った。

閉店から2時間以上も前だ。

おそらく同業者の間でも前代未聞だろう。

売れないよりも売れる確率が断然高い。

いや、むしろ売れることを喜ぶ立場なのだ。

このまま何も売れずに終ることはないだろう。


こういう場合の私の対処法はたった1つ…

ひたすら売れないように祈り続けることだ。

途中、紆余曲折があったものの、

(これだけで話が1本書けそうだな…)

私の真摯な祈りが通じたせいか

その日は奇跡的にクリアーしたのだ。


売るのが仕事の販売員にとって

これはなかなか苦痛を伴う行為だ。

しかし、視点や発想を変えると

別の景色が見えてくることもある。

売ることよりも売らない方が難しい…

ということは、

真の技術を身に付けたプロ販売員なら

売らないことだってできるはずだ。

そしてスピリチュアルな観点からいえば、

売上げに対する執着を手放したとき、

初めて売上げが勝手に付いてくるのだ。

そんなテキトーな話をハセコーにして

私は最後に言った。


「いいか、ハセコー。ここから閉店までは “絶対に売ってはいけないゲーム” だからな」


まさか新人販売研修の現場で 

“売ってはいけない”と教えられるとは、

ハセコーも思ってもみなかっただろう。



その直後だった。

1人のお客様が入ってきたのである。

私は真の技術を見せようとハセコーを制し、

自ら接客を買って出た。


もちろんお客様を無視したり、

邪険にしたりはルール違反である。

私は付かず離れず絶妙な “間” をとり、

要所要所で親切丁寧にお客様に接した。

我ながら華麗な接客だと思った。

お客様だってまさか私がいま

“絶対に売ってはいけないゲーム” を

やってるなんて思いもしないだろう。


ところが接客してるうちに

徐々に本来の目的を忘れ

ついつい熱が入ってしまったせいか、


「じゃあ、これ買います」


とお客様が言ったのである。


あ!しまった!


私は自分の未熟さを思い知った。

ふとチラッと横を見たら、

絶句しているハセコーの顔が見えた。

いつも極端にリアクションが薄いのに…。


どうしよう…。

今さら商品のデメリットを並べ立て、

思い止まるよう説得するわけにはいかない。

すべてはこちらの都合で、

お客様には一切関係ないことなのだ。


私は一か八かの賭けに出ようと思った。

それはPOSレジをもう一度起動させ、

翌日の売上に計上しようという作戦だ。

もちろん今まで誰もやったことがない。

果たしてそんなことが可能なのか?


早速POSレジを立ち上げると、

ディスプレイの真ん中に

おどろおどろしい警告⚠️の

ポップアップ画面が出た。

私はこの警告⚠️画面が大の苦手だ。

それは “翌日の日付だけど本当に大丈夫か?”

という内容だった。

私は祈るような気持ちで

目を瞑りながら “はい” のボタンを押した。


するとさらなる警告⚠️画面が出た。

それは “責任者の指示に従え”

という内容だった。


責任者だと?

責任者って誰だ?

あ!オレのことか!

オレがいいって言ってんだから

いいに決まってんだろ!


半ばヤケクソになりつつあった私は、

突き指でもしそうな勢いで

 “はい” のボタンを押した。


その時…

遂に道が開けた。

私はいつもの華麗なレジ捌きを披露し、

お客様を丁寧にお見送りした。


「やっぱり販売員は売ってナンボだよな!」


私は敢えてハセコーの顔を見なかった…

いや、恐くて見れなかったのだ。



さて、こんな私ではありますが、

今期も見事に《MEN'S BIGI AWARD》

最優秀スタッフ賞を受賞しました!

(それ書きたかっただけやん…)



まだまだ売らない技術は未熟ですが、

これからも精進していく所存です!


                                         おわり