- 藤原 正彦
- 国家の品格
勝手に採点 ☆☆☆☆
合理主義、論理主義、キリスト教的発送といった西欧文明
と決別し、日本的美意識、価値観、武士道精神を重んじよ
と声高に主張したベストセラー。
講演での発言を活字化したものであるため、分量も薄く読み
やい。ここまで指示される大きな要因。
ただ、詳細な説明が省かれているため、筆者の考えをより深
く理解したいひとには物足りないかもしれない。
それでも簡潔で分かり安い主張にうなづける部分も多く、
独断と偏見に満ちた断言調が小気味よい。
「会社は株主ではなく従業員のものである!」
「論理的主張にだまされるな!」
「民主主義より真のエリート養成を!」
など理由を聞くと思わず納得してしまう部分も。
ただ、一番難しいのはそのゲームで一番にならない限り、ルー
ルは変えられないということ。その道のりは険しい。
- 坂本 敬子
- さいごの約束 夫に捧げた有機の酒“和の月”
勝手に採点 ☆☆☆☆☆!![]()
泣ける!
病魔と闘ったご本人、献身的な看病を続けた奥さん、幼くして
父親を失う悲劇を味わった三人の子供たち。
皆さんの悲痛な悲しみが平易な文章を通してダイレクトに
伝わってくる。
家庭を持つ父、夫として癌に倒れたご本人の悲しみ、無念さは
いかばかりか。同じ境遇にある身として心中察するに余りある。
「10年は生きたい」という強い思いをあざ笑うかのように全身へ
触手を伸ばす癌。リンパに転移したがん細胞は全身へその分身
を撒き散らし、食道や肝臓、腎臓、そして遂には脳へ。
モグラ叩きのように叩いても叩いても、ゾンビの如く次々と復活。
仮に自分の身体で起ってしまったら、と考えると背筋が凍る。
様々な治療法を見つけてきては医師へその方法を試してもらえる
よう必死に食い下がる奥さんの執念に胸が熱くなる。
そんな壮絶な闘病生活のなかで生まれたお酒「和の月」
奥さんの情熱と熱意、そして旦那さんの暖かい思いがいっぱい詰
まったとってもおいしいお酒に仕上がっているに違いない。
- 深町 秋生
- 果てしなき渇き
勝手に採点 ☆☆☆ ![]()
「このミス」大賞受賞作。
ヤメ刑事の藤島が遭遇したコンビにでの無差別殺人。
そんな時、別れた妻から娘が失踪したとの知らせが・・・。
彼女は一体どこへ消えたのか?
一人で捜索し始めるうちに驚愕の事実が・・・。
暗い新堂冬樹作品といったところか。
たしかに読ませる文章力はご立派。
ただ、少年の告白が挿入される形式はいただけない。
勢いがそがれるし、大して深い考えも感じられない。
主人公があまりに暴力的、非人道的な狂人であるため、
全く感情移入できないことも難点。
子を持つ親ならそんなことはしないはず。
さらに、警察がこんな狂人をのさばらしておくことや、普通
の女子高生がこんなことできるか?的疑問が沸々と沸く。
要はリアリティーが欠如したあまりに読者が限定されるバ
イオレンス作品ということ。
「模倣犯」「白夜行」といった名作と同じような題材を扱いな
がら、薄っぺらな印象がぬぐいきれない。
これだけの筆力があるなら、全く違った設定で勝負して欲しい。
そういう意味で次回作は期待できるかも。
- 吉田 修一
- パーク・ライフ
勝手に採点 ☆☆
馴染み深い日比谷公園を舞台に、ひょんなことから知り合った
若手サラリーマンとOLとの交流、そして配送助手の夫と舞台女
優を目指す妻との日常を描いた中篇集。
え、これで終わり!?みたいな結末の2編。
どちらもあとに何にも残らない空虚さがむなしい。
ストーリーには起承転結が必須アイテムだが、それを無視する
とこうなってしまう悪いお手本のようなもの。
そこそこ舞台設定に引き込める筆力を持ちながら、この程度の
作品しか書けない、読者の期待を裏切ってしまうのは残念。
- 宮部 みゆき
- 幻色江戸ごよみ
勝手に採点 ☆☆☆☆
江戸時代の庶民描写に定評のある宮部氏が怪談や不思議
体験を絡めて描く短編集。
特徴的なのは体言止のような余韻を残したラスト。
病弱な娘のために年一回神無月の頃に押し込みを働く父親や、
禁令を破って見事な装飾を施したかんざしを仕上げた職人の
話など、その後を読者に想像させる見事な手腕。
また、怪談を活用した火事場で活躍する猫頭巾の話は怖さと
悲しみ、そして希望が絶妙のマッチング。
自分の身の程を知った少年が歩む人生はどうなるのだろう。
希望といえば、ご隠居さんから首を括った神様の逸話を聞いた
少年が自らも成功を収めていくサクセスストーリーは、ユーモア
たっぷりでしゃれている。
現代社会に設定を移した悲喜こもごもを描いて欲しいところ。
- 浅田 次郎
- シェエラザード〈上〉
勝手に採点 ☆☆☆☆
太平洋戦争末期、赤十字の要請に答える形で物資運搬
の任に当たっていた弥勒丸。
当時、安導権を得ていたにも拘らず、米国潜水艦の魚雷
の直撃を受け、多数の民間人と共に轟沈された。
その弥勒丸引き上げのため、謎の台湾人宋が国会議員、
商社、そしてやくざの親分に100億円の資金を用意する
よう持ちかける。
彼の真意は。そしてその正体は!?
いつもの泣かせ節は抑えられているものの、弥勒丸の
関係者が複雑に絡み合い、ひとつに収束していく様が
スピード感たっぷりに描かれている。
多少、偶然がうまく行き過ぎているきらいはあるものの、
おおむね許容できる範囲。
ただ、現代における引き上げの話よりも、心惹かれるのは
弥勒丸を襲った悲劇とそれにまつわる人間模様。
撃沈されるまでの優雅な船内で出来事は、まるで夢気分。
ホテルのような豪華な装飾、贅沢な食事やシェエラザード
が流れる食後の歓談など、戦局に左右されない特別な空間。
船長をはじめとする帝国郵船の社員たちの結束力、職
人気質、責任感にも脱帽。
乗組員や堀少佐、正木中尉らが抱える複雑、深刻な問題さえ
も大きな優しさで包み込むような母性的な弥勒丸。
誰でも彼女に恋せずにはいられなかったほど。
それと対照的に矮小なのは、自身の延命のため、弥勒丸
を人間の盾に使った日本陸軍。
まさに亡国の輩。
- 鈴木 光司
- ループ
勝手に採点 ☆☆☆
近未来サイエンススリラー。
転移性癌ウィルスが猛威を振るい人類は滅亡の危機を
迎える。
科学者であった父はすでに末期を迎え、愛する恋人まで
もがキャリアである事実が判明。
医学生の馨は、宿命付けられたようにウィルスの謎に挑
むためアメリカへと向かう!
たまたまギャオで「リング」「らせん」をやっていて、視聴した
のでついでに手にとって見ることに。
オカルト・ホラー色はかなり薄れ、SF要素の強い仕上がり。
ループに存在する人工人類が、「リング」や「らせん」の舞台
となっているなんて、かなり荒唐無稽で強引な話。
「らせん」のラストシーンでの、真田広之と佐藤浩市のやり取
りにはこんな裏があったとは驚きだが、やはりどうも、素直に
納得・理解できない部分が大きい。
「らせん」でもウィルスに感染して貞子が誕生、急成長を遂げ
るシーンがあるがかなり近い唐突さ。
貞子シリーズからは全く離れた新しい設定で描いた方が独自
の世界感や考え方も伝わったはず。
すとんと腹に落ちてこないわだかまりが難。
- 夢枕 獏
- 陰陽師 瀧夜叉姫 (下)
勝手に採点 ☆☆☆☆
久々のご存知陰陽師シリーズ。
安部晴明と友人源博雅が、都の平和を脅かす強敵に
立ち向かう!
今回立ちはだかる難敵はあの平将門。
首だけでも生きていた逸話もある妖怪的な存在。
彼が興世王の陰謀によって、世にも恐ろしい鬼へと変貌
を遂げ、死後20年後に蘇る・・・。
いわゆる「キモおもしろい」ストーリー展開。
嬰児を殺害して食べてしまう「児干」や将門が妻や子供の
亡骸を食する場面などかなり気持ち悪い描写も。
しかし、晴明の推理と呪によって、興世王の企みが暴かれ
最後は非業の死を遂げる。
ネタ的にはあまり新鮮味はないものの、水戸黄門的悪が滅
びる展開で安心して楽しめる。
欲を言えば、晴明の派手な活躍を期待したいところだが、
今回はかなり脇に徹した感。
それにしても将門の生命力、復讐心は怖い。

