- 浅田 次郎
- シェエラザード〈上〉
勝手に採点 ☆☆☆☆
太平洋戦争末期、赤十字の要請に答える形で物資運搬
の任に当たっていた弥勒丸。
当時、安導権を得ていたにも拘らず、米国潜水艦の魚雷
の直撃を受け、多数の民間人と共に轟沈された。
その弥勒丸引き上げのため、謎の台湾人宋が国会議員、
商社、そしてやくざの親分に100億円の資金を用意する
よう持ちかける。
彼の真意は。そしてその正体は!?
いつもの泣かせ節は抑えられているものの、弥勒丸の
関係者が複雑に絡み合い、ひとつに収束していく様が
スピード感たっぷりに描かれている。
多少、偶然がうまく行き過ぎているきらいはあるものの、
おおむね許容できる範囲。
ただ、現代における引き上げの話よりも、心惹かれるのは
弥勒丸を襲った悲劇とそれにまつわる人間模様。
撃沈されるまでの優雅な船内で出来事は、まるで夢気分。
ホテルのような豪華な装飾、贅沢な食事やシェエラザード
が流れる食後の歓談など、戦局に左右されない特別な空間。
船長をはじめとする帝国郵船の社員たちの結束力、職
人気質、責任感にも脱帽。
乗組員や堀少佐、正木中尉らが抱える複雑、深刻な問題さえ
も大きな優しさで包み込むような母性的な弥勒丸。
誰でも彼女に恋せずにはいられなかったほど。
それと対照的に矮小なのは、自身の延命のため、弥勒丸
を人間の盾に使った日本陸軍。
まさに亡国の輩。