赤い指/東野 圭吾
¥1,575
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勝手に採点 ☆☆☆


妻からの連絡で急いで帰宅してみると自宅の庭には幼女

の遺体が。なんと中学生の息子が犯人。


中年の夫婦は、溺愛する息子の将来と自己の保身のため、

ある計画を実行する。そこへ登場する刑事・加賀。


彼は事件の真実を見抜き、解決へと導くことが出来るのか。


東野氏が好む家族愛がテーマ。


夫婦の心境や息子との軋轢、同居する母とのつながりなど、

より深堀すべきテーマが表面的で真に迫ってくるところがない。


そのため、犯行を別人に擦り付けるという大胆な行為やずっと

ボケたふりをし続け、口紅を使って息子のトリックを暴くといった

やり方が、そうまでするかよ~的な印象がどうしてもぬぐえない。


また、加賀刑事と実父間の表面的には冷たい関係も重要なファ

クターになっているため、事件自体がぼやけた印象に。


その他の作品でもそうだが、複雑な心理描写を省いて、目に見

える行為や結果のみを第三者からの視点で読者に提示する手法

を徐々に変えていくべきではなかろうか。


初期作品では複雑なトリックを使った明快な謎解きで、それ以降

は愛情をテーマに過酷な人生を歩む人々を緻密に、淡々と描くこ

とで大きな感動をもたらしてきた東野氏。


今度はひたすら一人称で人間の心理に深く迫った手に汗握るよう

な大作を期待したい。

アンボス・ムンドス/桐野 夏生
¥1,365
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勝手に採点 ☆☆☆


桐野氏特有の暗さを内に秘めたひと癖もふた癖もある

女性たちが主人公の短編集。


読後の爽快感からは程遠いが、女性の怖さを実感できる。


特に印象深かったのは、実家のお寺に居候するハイミスの話。


義父や弟への強い憎しみと実父に対する憧憬、自分を守って

くれない母に対するいらだち。


複雑な胸中を見透かすように現れる親子。


彼女が死んでしまった原因は、自らが作り上げた憎悪の念が

子供を通じて自分に跳ね返ってしまったからなのだろうか。

大石 圭
出生率0(ゼロ)

勝手に採点 ☆☆


世界中で卵子が死滅し、子供が生まれなくなってしまう

現象が発生し、遂に人類は刻一刻と滅亡の道を進みは

じめる。


人々はドラッグ、セックスに溺れ、貧しい子供たちが高値

で人身売買されるなど、退廃的、享楽的な世相に変化し

ていく。


そんななか、日本国政府はアジア地域での安全と食料

確保のため徴兵制を導入し、全国各地で暴動が発生する

自体に陥っていく。


「人類が進化を極めたせいで細胞レベルで死に向かう」

というコンセプトは面白いものの、いかんせん構成が

めちゃくちゃ。


ストーリーをまとめる力量がないのに、登場人物だけ増

やしても混乱が増すばかり。


いっそ、オムニバス形式でまとめればいい。

ただ、読者が引き込まれるほどのものにはならないと思うが。


セックス、ドラッグ、小児愛など、簡単に目を引きやすい

アイテムを乱用したお下劣小説。

飢餓海峡 (下巻)/水上 勉
¥620
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勝手に採点 ☆☆☆☆


戦後直後の混乱した世相のなか、青函連絡船の転覆事故が

発生し、多くの死者が出た。その混乱の最中、北海道のある

村が、一軒の質屋の火災により焼き尽くされる悲劇が起きる。


多数の水死者のなかに乗客名簿にない、身元不明の男二人

の遺体があった。


一方で出火もとの焼け跡からは、惨殺されたとみられる一家四

人の死体が発見され、強盗放火殺人事件と断定される。


網走刑務所の老看守部長の情報提供と北海道警察の粘り強い

捜査により、身元不明の男二人と犬飼太吉という謎の男が、強盗

を働き、転覆事故にまぎれて海を渡る途中、仲間割れをしたもの

と断定された。


青森に渡り、犬飼太吉を追う弓長刑事は、身体を売って働く貧しい

女・八重の虚偽の証言により、あと一歩のところ彼をで取り逃

がしてしまう。


彼女はなぜ嘘をついたのか!?その後の犬飼太吉の足取りは!?

それから10年後、思わぬ悲劇が訪れる・・・。


「罪を憎んで人を憎まず」

登場する刑事たちの共通する思いに共感を覚える。


戦後の激動を生きていくために犯罪を犯した者、逮捕され刑期を

終え出所しても金はなく、再び犯罪に走る彼ら。


そんな彼らの境遇を痛いほどに理解できる刑事たちは、犯した

罪を清算させるために懸命に捜査に打ち込む。


「彼を逮捕して本当に良かったのか」

そう問いかける味長刑事のせつなさ、悲しみ、やるせなさが心に

しみる。


ただ、一点どうしても納得できないのが、八重をあんな形で殺して

しまった太吉の動機。


幾等なんでも、あんな杜撰な犯行では捕まってしまうのは明らか。


彼ほど精神的にタフで明晰な頭脳を持っているなら、きっと違う

方法をとったに違いないと思うのは私だけであろうか。


それでも、最近の小説にはない、骨太な筆致、複雑・緻密なストー

リー構成に逆に新鮮さを覚える。

宿命/東野 圭吾
¥650
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勝手に採点 ☆☆☆


地元の有力企業の社長が殺害された。


凶器はボーガン。捜査を担当する刑事・勇作は、容疑者として幼馴染

であり、ライバルでもあった瓜生に目を付ける。


瓜生は殺害された社長の前の社長の息子で、今は医学部で教鞭を取

っている。そしてその妻は、かつて勇作が愛した美佐子であった・・・。


勇作は事件後行方の分からなくなった古いファイルとその謎を解くべく、

ひとりで調査を続けていくが・・・。


ラストを含め全体構成は見事。なるほどそういうことだったのかと納得。

運命に翻弄された二人の兄弟は事件後どのような関係になるのだろう。


ただ、瓜生や美佐子の人物描写が甘く、勇作と美佐子の関係も中途半

端な感じが否めない。


犯人の人となりもあいまいなままなので、殺害動機も不明瞭。


人が殺人を犯すまでの複雑な心理描写がすっぽり抜けているので、

物語に深みがなく表面をなぞった印象が強い。


それでも、白夜行や手紙といった作品群の原点ともいえる運命を受け止め

ひたむきに生きるテーマは氏のオリジナリティを感じる。

ねじまき鳥クロニクル〈第1部〉泥棒かささぎ編/村上 春樹
¥540
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勝手に採点 ☆☆☆


ある日妻のクミコが突然出て行ってしまう。


途方にくれた僕はその原因を探るが、そこには彼女の兄である

綿谷ノボルが大きく絡んでいるらしいことを突き止める。


空き家の古井戸に佇んで、彼女のいる別世界へたどり着こうと

懸命に空想するが・・・。


珍しくミステリータッチで話が進む。


ただ、結局綿谷ノボルがどのように姉妹を汚したのかは分からず

じまい。加納マルタもどこへ行ったのやら。


文量が多いだけに、サイドストーリーは豊富。


間宮中尉の中国談や加納マルタ&クレタ姉妹・ナツメグ&シナモン

親子の不思議な仕事とその生い立ち、近所の不登校少女・メイ

との交流など、それだけで十分一冊の小説になるおもしろさ。


ただ、あまりにサイドストーリーを組み込みすぎたせいで、肝心の

クミコの存在が忘れがちに。


彼女がどうしてそんな行動を取ったのか、兄からどんな束縛を受け

ていたのかが尻すぼみで終わってしまう。


ラストの空しさも寂しい。


彼女が出所できて元の暮らしができるのはどれほど先だろう。

水の眠り 灰の夢/桐野 夏生
¥660
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勝手に採点 ☆☆☆☆


時代は東京オリンピック前の1960年代。


トップ屋と呼ばれるスクープ専門の記者・村野善三が、連続爆弾

魔・草加次郎の追跡や自ら巻き込まれた女子高生殺人事件の真

相究明に挑む活躍劇。


全く理解不能な題名からは想像できない面白さ。

「トップ屋・村野善三」の方がよっぽど良い。


当時の時代背景描写のリアリティ、事件記者たちのチームワーク、

軋轢、刑事たちとの駆け引きなど、真に迫る描写で息をつかせない。


ストーリー展開のうまさが随一の横山秀夫氏や独特の世界観、文章

で村上ワールドを繰り広げる村上春樹氏など、すばらしい作家は数多

く存在するが、筆者の「読ませる文章」を描く力は相当なもの。


ついつい引き込まれラストまで読者を手放さない力強さを感じる。


今回はコテコテの男世界を描いた作品にも拘らず、女性であるハンデ

キャップを全く感じさせない。


欲を言えば草加次郎は第三者であった方が、よりリアィティが増して良

かった気もする。爆弾魔と殺人犯の親子というのも・・・。


主人公の村野は、別作品で主人公となる村野ミロの父親という設定

らしい。ぜひ彼女が主役のも読んで見たいところ。

閉鎖病棟/帚木 蓬生
¥580
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勝手に採点 ☆☆☆


ある精神病院で暮らす患者たちの日常。


病院内で発生する暴力行為や患者の自殺、患者間の連帯感や友情、

そして退院して自立の道を歩むもの。


そうした実態を患者たちの生い立ち、境遇を織り交ぜながら描いた

感動のドラマ。


とは言っても感動はない。


精神病院という設定上、全体的に暗いのはやむを得ないが、それでも

ストーリー展開が暗すぎ。読み進めるのが苦痛なほど。


4人を殺害し、死刑執行後奇跡的に組成した男や父親から性的暴行を

受けた女子中学生、覚せい剤中毒の元ヤクザなど、境遇が悲惨。


それ以外でも、幻聴や幻覚に悩まされ、家族に危害を加えるようになっ

て強制的に入院措置を講じられたものがほとんど。


当然の如く、精神分裂病と診断された彼らは家族からも敬遠され、見舞

いに訪れる親族もほとんどなく、入院期間も十年以上の長期に及び、こ

こで人生を終えるものも多い。


それでも精神科医の筆者がその実態を多少の脚色があるにせよ公に

した意味は大きいかもしれない。


ただ、小説としてはあだ名の登場人物が特定しずらく、年齢や容姿が

イメージできないところが残念。


また、ユーモアや軽さといった話題ものないことが共感しずらい。


ましてラストの殺人事件は過酷。せめて死刑だけは免れて欲しいところ。

熱欲/堂場 瞬一
¥1,890
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勝手に採点 ☆☆


シリーズ第三弾。


刑事課を離れ生活安全課に所属する鳴沢了。

今回の捜査対象は、マルチ商法による巨額詐欺事件。


わずかな蓄えを費やし、ヤミ金にまで手を出し自殺する被害者も。

内部通報者を通じた地道な捜査の続ける鳴沢たち。


しかし、その背後に中国系マフィアの魔の手が迫る。


主人公の設定や事件の背景はかなりリアリティーに富んでいるもの、

今回のゲスト出演者である親友とその妹の存在、そしてチャイニーズ

マフィアの登場により台無しになっていく。


別にニューヨークでデカをしている元親友なんか出さなくても十分ストー

リーは展開できるし、特に最後のヒーロー張りの活躍はアリエナイザー。


また、いくらマフィアでも日本に来てまで警察官を拉致・殺害する輩は

いないだろう。まして幹部ならなおさら。


おかげで架空の投資話を利用した詐欺事件の摘発までの緊迫感が

削がれているし、首謀者たちの人物描写がなおざりなので、どうも

感情移入がしずらい。それもラストはなんとなく尻すぼみ。


悪は必ず滅びる的な要素と首謀者たちの悪さ加減をより前面に押し

出し、捜査陣の苦悩、軋轢、チームワークを掘り下げた人間ドラマに

して欲しかった。


主人公の鳴沢は大きな苦悩を抱えているようだが、本書の第一弾、

第二弾を読んでその謎に触れてみたいと思わせないところが残念

なところ。

水の中のふたつの月/乃南 アサ
¥567
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勝手に採点 ☆☆


久しぶりに集まった幼馴染みのめぐ、ありんこ、理紗の三人。


それぞれ二十歳を過ぎて、独立した暮らしをしていたところへ、

めぐからそれぞれに連絡があった。


ほどなくめぐの様子がおかしい事に気づくふたり。

そして、彼女の彼氏を紹介された二人は・・・。


何の脈絡もなく、めぐの彼氏を殺害してしまう三人。

それも最初はめぐがターゲットだったのに・・・。


突然、三人がよりを戻してしまう展開に面食らう。


また、彼氏の殺害理由はまったくもって不明。

ありんこと理紗は、友人の彼氏と特に理由もなく肉体関係を

結んでしまう。


それぞれ嫉妬に狂うこともなく、淡々と物語りは進む。


小学生時代に起きた事件をなぞるような今回の犯行。


もったいぶった展開で、なぜめぐがおかしな言動をおこなうの

かもわからずじまい。