祭囃子とともに神輿の進行が始まった。
自分達、交通安全部もポジションに着く。
と言っても、出発から2km近くはクルマの往来がほとんどない道路だ。
田舎ならではだ。
そんなに気を遣わず、交通整理も必要の無いと思えるほどの区間で、同行していればいい感じだ。

神輿も意気揚揚とゆっくりと左右に蛇行しながら進んでいく。
ここの祭りは一人が神輿の上に乗り、拡声器を持って囃子を歌いながら進行する。
この囃子唄は非常に卑猥な歌詞で、とてもテレビの電波には乗せる事が出来ない単語と内容だ。
その地域毎の代表者が神輿に乗り、町中を拡声器を使って歌いながら練り歩くのだ。
自分も入会中、3度乗り、歌った事があるが、意外に爽快で気持ちいいものだった。
自分一人神輿に乗り、20人の男が神輿を担ぎ、あとに続く隊列を従えて囃子を歌い、隊列の掛け声と共に進行していく様は、それこそ天下を取ったような気持ちにさせてくれた。
いかに威勢の良い囃子声を出せるかで神輿の活気が違ってくる。
それを支える担ぎ手は皆必死だ。
肩にズンと乗る神輿に顔が歪む。
それにたった1人だけ乗った神輿は非常に重くなる。
不思議なほどに重くなる。
60kgの人が神輿に乗っても、均等に担ぎ手の肩に乗ったとして1人プラス3kgの負荷だ。
神輿自体の重量は、何kgかは知らないが、それほどでもないのにだ。
体が小さく軽い人も乗れば、100kgはあろうかという大男も乗る。
大男が乗った場合、担ぐ者達からは、うああ”ーといった悲鳴に近い叫び声が上がる。
その時、神輿はズンと大きく下に下がる。
崩れるのではないか、というほどに。
あの担ぎ手にはなりたくない、と言いながら、隊列からは笑いと歓声が上がった。
1年で1度だけ酒を浴びながら、街中を堂々と大騒ぎして馬鹿が出来る日だ。
先人達も、こうした弾けられる数少ない地域の娯楽として、代々受け継いできたのだろう。

こんな祭りや神輿を見て、今自分は少し外から参加する事で一助になればと思っている。
自分より年上の参加者も数人いるが、自分にはもう無理だ。
せめて交通安全で。

やはり、めまいが辛い。

部員には事前に自分の状態を伝え、前半だけの参加予定とさせてもらっていた。


懐かしい会の連中と少しの会話を楽しんで、部の代表に告げ、予定通り前半だけの参加で、ひっそりと帰らせてもらった。