あけましておめでとうございます。2019 | メメントCの世界

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2019年 年頭所感と「かくも碧き海、風のように」

 

あけましておめでとうございます。

12月に入り、執筆のラストスパート、さいごの追い込み、もう土壇場を通り過ぎて、大晦日にようやく脱稿しました。

大正8年生まれの人々、戦中の詩人、文学者、演劇界の人々に取り組んで、なんというかハードで充実した日々でした。

双葉山が大活躍した時代、職業野球と言う名のプロ野球がスタートした時代、226以降の戦争に転がっていく時代、

疾風怒涛の昭和にどっぷりつかり、力不足も感じつつ、最後まで書いたのですが、さて。

いろいろなことをおもいます。若者の群像が何をおもいどこへ行こうとしたのか。

 

戦争の時代の「風立ちぬ」

改稿しながら、昭和10年代の堀辰雄「風立ちぬ」ブームにへえ==とびっくりしました。

すみませんが、ジブリを見てなくて。それで、その時にはやってた「風、立ちぬ。いざ生きめやも」とぶつぶついったら、

息子から変なフランス語がかえってきて、びっくり。しかもジブリだという。

ジブリの「風立ちぬ」って、飛行機の話でしょ?って言ったら、堀辰雄と堀越なんとかが混じってるという。

なんてまあ、不思議な話だ。じゃあ、飛行機と結核の話?って聞いたら、主人公の奥さんは結核だという。もっと簡単にいうと、「堀辰雄がゼロ戦を作ってると思えばいいんだよ!」と言うから、もっと驚いた。

そうだったのか、今頃私も、びっくりした。当時の若者は、結核で死ぬか、戦争で死ぬか、どちらかの時代ですね。

思い出すと、中学生頃にそういえば、結核で死ぬ薄幸の恋人の話を読んでいた友達がいた。私は読まなかったそういう青春な文学。


「火山灰地」

堀田善衛がアンサンブルで、二日だけ出演した、久保栄の「火山灰地」
 1938年新協劇団初演の久保栄の「火山灰地」、は北海道の十勝平野の物語。

アシビナの西田さんに聞いたら、リアル火山灰地のところに住んでいたという。あの、窯前検査場とか、部落祭りとか、まさに現地だったそうだ。開拓で入植してあそこで火山灰地を耕して、その後に、自衛隊の訓練地で取られて、音更に移ったと聞いた。ああ、火山灰地。

あの話は、土壌を改良する農業試験場と話と、開拓地に生きる農民の話がダブルになってて、五時間かかる大作だ。

幕ごとに、詩の群読があってそういうスタイルの先駆けになってもいる。

もう凄いリアリズムで読んでてほんとにまあすごい。すごすぎて、とっつにくいけど。

兎に角長大だ。

この長大さ・・・・何だろうとおもったら、ロシアの小説だ。トルストイも長い。ドストエフスキーも長い。そして、「静かなるドン」という、ロシアのドン川流域のコサックに人々を書いた大河小説の長さときたら・・・・

でも、その頭の幕開きが火山灰地なんだよねっていうか、戦前の人々はそういうロシア文学に心酔していたんだろうなあと。

すごく素敵な詩で始まる「静かなるドン」

実家にある、河出書房から出た世界文学全集は横田瑞穂訳で、冒頭に以下のコサック古謡がある。

「栄えあるわれらの土は 鋤ではおこされず

われらの土は 馬のひずめでおこされた、

栄えある土には コサックの首がまかれ

われらの静かなドンは 若い後家衆で飾られ

われらが父なる静かなドンは 孤児で彩られ

静かなドンの波は 父母の涙でみたされた」

 

申し訳ないことに、ロシア革命って長すぎてもう根気が続かない。

池田理代子の「オルフェウスの窓」を先に読んでしまった私にはこの血で血を洗う

コサックの戦いには、そんなに苦労して死人の山を築かないと革命はできないなら、

もういいよ、って思ってしまうくらい、死者がドンバスの草原に累々と横たわっている。

そういう時代の風に吹かれながら昭和の人々は戦争時代をいきてきたんですねえ。

 

コールハウスウォーカーの秘密
 「若き日~」の中で、冒頭重要なドイツの小説としてクライスト作「ミヒャエル・コールハウスの運命」が出てくる。

残念ながら、脚本にはいれられなかった。

中世のルター好きな人は知っているのかなあ。

王様がたくさんいた時代のドイツ、馬を売りにいった馬喰のコールハウスが、通過地点のザクセンの検問で、領主に決まりだと騙されて黒馬を没収される。しかし、その決まりは嘘で、コールハウスは領主を訴えるが、最終的に農民一揆を

起こし、町を焼き抵抗することでしか対抗できない。最後にコールハウスは打ち首になる。領主は禁固刑となる。

そのコールハウスという名前が、ミュージカル「ラグタイム」にも出てくる。原作のドクトロウ作・小説「ラグタイム」は、アメリカの1910年代のことが主になっていて、コールハウス・ウォーカーという黒人のピアニストが主要人物として出てくる。ちょうど、大逆事件の頃のアメリカ。エマ・ゴールドマンも登場する。彼は黒人と言う理由で20世紀初頭なので、めちゃめちゃ差別され、白人の消防団にフォードの車を理由もなくオシャカにされる。それを司法訴える中で、妻が消防団と警察の暴力で負った傷で死に、ついには、無政府主義者のテロリストになるのだったあ。あああ、全くほとんど、「ミヒャエル・コールハウスの運命」と同じ筋ではないか!!!!20世紀に話が移って馬が車になったのだ。ドクトロウは、クライストへのオマージュとしてコールハウスという登場人物を出した。
ああ、巡り巡ってこうなるのか。

四季時代の29歳くらいの頃、イギリス人のサウンドデザイナーが来日した時、3週間に満たない間だったが、毎日毎日、2時間以上も音響だけでなく、シェークスピアから何から文化についてまでダメ出しと講義をしてくれた。黄色い日本人の小娘相手に。(当時)その後、彼は「ラグタイム」でサウンドでトニー賞を取った。ジョナサン、お爺ちゃんになったかな。コールハウスは、現代のISなのかもしれない。

 

改稿していると、びっくりするように、言葉がはまっていく時もあれば、どうやっても捉えられないので自分の脳みそに絶望する。しかし、堀田善衛や加藤道夫らの苦しみは学生時代を終わって更に過酷になっていく。

加藤道夫はニューギニアへ通訳官として赴くが、飢餓の中敵の兵を人肉食するような状況に陥る。

そのすさまじい体験を語った相手は少ないだろうが、堀田が小説に書いている。それはそれで残酷なことだとおもった。

小説家というのは、全てを見てそれを見た以上の光景に写し取っていくのだろう。

 

舞台の脚本として十分ではないかもしれないけれども、書きながら追体験するように登場人物が触れたものを読み解くのは幸福なのだった。

しかしまあ、年を越す前にぎりぎり書き終わりました。

まだまだ共同作業が残っていますが、ひとまず、明けましておめでとうございます。

 

チケット発売は1月15日からです。嶽本にメールくださってもかまいません。

お早めにご予約くださいませ。

 

 

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