女人往生環終了2 | メメントCの世界

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しわぶきと静寂の間に 2

 

 

女人往生環と言う名前に相応しい還流を作りあげられたのは、音楽面での充実、生演奏の音の絵巻でした。

邦楽・堅田喜三代さんの音楽プランで、日本橋劇場では錚々たる邦楽演奏家の出演となりました。

 

パターチャーラーでは、四拍子と言われる太鼓、大鼓、小鼓、能管という組み合わせでお囃子が鳴ります。今回は、

それに加えて義太夫三味線、そして箏曲が「彼の僧の娘」の芝居の機微を拾って千々に鳴り響きました。

歌舞伎座でもないのに、邦楽のエキスパートたちが様々な楽器を場面に合わせて、下座で鳴らして行く様は、裏から見ていても圧巻でした。

通常は、黒御簾という囲いの中で演奏される下座ですが、今回は下手の奥に箏の下野戸亜弓さん、下手奥に御簾のない下座のエリアを作りました。奥に見える大太鼓の周りで、各種の笛、たくさんの効果音、長唄などが演奏されていきました。

開場時には、「着到」という能管、太鼓、大太鼓などの鳴物が鳴り響き、舞台監督の柝が打たれます。

儀礼囃子というこの演奏も初めてでしたが、緞帳が上がるきっかけその他、柝が全てを区切っていく舞台のお囃子の伝統が

堅田さんのもと粛々と奏されていきました。

 

鳴物主体の「パターチャーラー」と比べて、「彼の僧の娘」では、全体の色を「絃の音色」が決めていったのです。

試演会では三味線一本で演奏していた曲を、日本橋劇場では箏、劇中で、高代が芸者として一本立ちのお披露目のお座敷で披露する地唄の「黒髪」は、箏曲演奏家の下野戸亜弓さんが、箏から三味線に持ち替えて舞台上での演奏となりました。

義太夫三味線と細竿三味線の二丁での演奏は、高代の内面を深く深く絃にのせてくれました。

劇場に張り詰めた空気は、俳優の発するセリフの緊張や強弱を受けて弦が更なる陰翳を深めていました。その繊細な振動は、静寂の水面に音の輪が広がるように増幅し、音波を寄せては返しまた打ち寄せる海、遠州灘の砂浜を舞台空間に音という方法で造形していたのです。まるでしわぶき一つ起こさせないような空気がそこにありました。

 一つ残念なことは、初日14日の上演時間が会場の閉館時間ぎりぎりになった為、あるシーンをカットしました。翌日の15日にはノーカットで上演しましたが、各日で違う舞台となったのは、返す返すも残念です。私の演出家としての力量の無さを感じた瞬間でした。全体の芝居の間合い、テンポ、それらをもっと強力に引っ張って行くには強い演出家でなければ出来ないことかもしれません。

(続く)