女は恋で燃え上がる~クララより愛をこめて・最後のラブレター②~ 杉嶋美智子
今回の芝居で最も私が好きな台詞があります。
「ここまで来てみると、何が信じられて、信じられないか、お互いの剥き出しの部分でしか判断つかない。それを見せ合い繋がるという事は、言葉よりも饒舌なはずよ。」
とても文学的にセクシーな事を喋っています。杉嶋語に置き換えれば
「つべこべくだらない事を話す時間があるなら、大好きな男と素っ裸で朝まで濃厚なセックスする事の方がよっぽどリアリティあるわよ。」
クララは中国も文学も好きだった。
けれど一番大事にしたのは、言葉では語り尽くせない衝動だったと思うのです。
嶽本クララの衝動は「恋」でした。上海で一番最初に出会った男性、田之倉少佐への恋。お客様にみせる上で、どのシーンのどの台詞で田之倉の虜になったのかは明確にしなくてはいけませんが、クララは田之倉に出会った瞬間に彼の眼差しの虜になったと思います。
目が合った瞬間に恋に落ちている。
ベストな配役というのは、出演して下さった皆さんそうなのですが、クララの「恋」について語るとしたら、田之倉少佐役の清田正浩さんです。僭越ながら、清田さんは舞台上での視線の使い方が非常にうまい役者だと常々思っていました。舞台上でお客さんが演技やら装置やら衣裳やらに目が行く中で、この時は役者の眼を見るだろう、という時に視線を動かす間が絶妙なのです。
例を挙げれば、強がるクララを演じる時に、私は思いつきで脚を男の様に組みました。その剥き出しになった脚を清田さんがちゃんと見ている舞台写真が残っているのです。
ここは清田さんの視線を信じて、私の子が公園の砂場に埋めてしまっていた私の「女」の部分を必死で掘り起こしました。
燃えた燃えた。
賛否両輪ありましたが、私は田之倉への「恋」に燃えさせて頂きました。あまりに火照ったので、若年性更年期障害かと思って嶽本に相談したりしてましたが、どうもそうではなく私の中の「女」が「恋」によって燃え上がったようです。
ここ数年「お母さん」として生きていた私にとって、とても面白い体験のできる芝居でした。
そして・・・有難い事に、芝居というのは千秋楽があります。五回公演の幕が下り、舞台が真っ新になり、打ち上げて朝を迎えると、芝居で感じた「恋」の熱は自然と冷めていくのです。千秋楽の翌朝私を迎えてくれた子供は、私を否応なく主婦に戻してくれました。
この作品は再演されるかも知れません。その時、今より歳を取り、更に「お母さん」になっている私が衝動に生きる「女」クララを演じられるのかどうかはわかりません。が、今回の舞台で、奔放な「恋」を許されない私に燃える恋を体験させてくれた嶽本に、そして「自由」な演劇という世界に感謝します。