廻る因果の糸車
メメントCでは、本公演を挟んでリーディングを行っています。というか、新作の発表は必ずリーディングというプロセスを経ている場合が多く、すでにテキストを知っている方が本公演に来られるという事になります。それが、保険になるのか飽きにつながるのが、まだ解析できるほど実績が重なってはいないのですが、私としては順当な道程だと思っています。「理由」パート1をリーディングしてからもう二年近くが経ちます。あれは、第一回目の「劇が孵化する夜に」でした。あの時、まだメメントは産声を上げたばかりで、劇作家協会有志による「箱プロジェクト」の手を借りての公演でした。あの母と娘の50分間の血みどろのダイアローグは、私の書くジャンルの中で古くて新しいものとして定着しました。それには、井出さん演じる「お母さん」の存在が凄まじく大きいのでした。
元来「あて書き」というものが苦手だった私は、ひょっとして役者に興味が薄かったのかもしれません。そんな事言うと田中と杉嶋に殺されそうですが、時代劇ばかり書いていた私に、このヒロインは誰?という問い掛けすらが存在していなかったのかもしれませんね。その事は、公演を重ねることで矯正されましたが、逆に固定したイメージを覆す事が非常に困難になりました。
メメントCは私と田中と杉嶋の三人なので、ほとんどの場合、客演を頼む事になります。今回の合同公演でも、他の作者の方へキャスティングを提案して出演交渉を代行致しました。その中で、出演をご承諾頂く前から勝手に決めていたのが、「発酵シタラバ、」に出演の内山厳さんです。現在、フリーの内山さんとは、第一回の「劇が孵化~」で他の作家の出演者として出会いました。世間は狭いもので、奥さまは知り合いだしニアミスもあちこち。所詮は狭い世界なのでしょう。彼のスマートで確かな説得力ある演技は、同世代の俳優の中に非常に得難いものだと感じました。今回も、お一人で三つの役を演じ分け、ナレーションでも大活躍して下さっています。足を向けては寝られません。
内山さんと私の共通項は、RADAというイギリスの演劇学校のセミナーに行った事です。私は数度の東京での出張セミナー。内山さんは留学しての本格俳優修行。私はどちらかというと演出家目線での台本分析などを勉強したのですが、そこに行った事で井出さんや、奥様の一谷さんとも知り合う事ができました。何故、そこに行ったかというと、昔の宇宙堂時代、旧グローブ座に置きチラシを頼みに行って、そこで世間話をした方に「行った方がいい」と言われたからです。あまりにも単純ですが、オペラのアンサンブル以外、役者をやったことのない私が、懐かしい劇団昴の三百人劇場の上で行われた夏季のRADAのセミナーに俳優のふりをして乗り込んだのです。結果、まあ人生が変わったので、あのグローブ座で私に声を掛けてくれた見知らぬ女性は神様かもしれません。
そうそう、私たちメメント三人は宇宙堂で出会ったのですよ。出会って、全員辞めて、音信不通になるほど各自は痛手を負ったのですが、その三年後に私の初戯曲「かつて東方に国ありき」が青年座で上演されると聞いて、二人は駆けつけてくれて、涙の再会を果たしました。今、明かされるメメントの真実!!続くかも・・・・