客演紹介 〜 井出みな子「時間よ、お前は美しい」 | メメントCの世界

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客演紹介 ~ 井出みな子「時間よ、お前は美しい」


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 井出さんは、猫のようです。猫と一緒に住んでるからか、お宅にお邪魔すると、クロネコやっちゃんと、キジ猫マリンちゃんのお母さんのようです。もちろん、人間の立派な息子が二人居て、息子がやはり二人いる私のよき理解者です。
「そうなのよ、次男はね、しょうがないのよ!でもやさしいわよ。」と子育ての愚痴をだべる私をやさしいオーラで癒してくれます。そんな井出さんによって「理由」のあの母は世の中に出ました。
 昔、劇作家協会東海支部の劇王で敗退した私ら三人は、臥薪嘗胆、再起を伺っていました。それで、その話の前と後ろを書いて、「理由」は完結編となりました。井出さんに出会う前に本は書いていたのですが、書き上げたその年の夏、現代演劇協会主催のRADAというワークショップで、私は井出さんと出会いました。その時、ピンと来ました、彼女に違いないと。もちろん、彼女の舞台はいくつも見てましたし、魅力をいつも感じていました。何というか、しなりながらも強いというか、若い女なんかが太刀打ちできない女性性を感じるのでした。だから、ワークショップ最後の飲み会で、思い切ってリーディングへの出演オファーをしましたら、すんなり受けてくれました。

 木山事務所を経て、演劇集団円で活躍され、酸いも甘いも知り尽くした井出さんは、見知らぬ若い人にも何の垣根も無く、真正面から演劇してくれます。RADAで、真夏夜夢をやった時は、彼女はパックで私はクワガタ虫で地面に転がってました。そのパックのかわいいこと、面白い事と言ったら、あまり余所じゃ見られないです。何にでも飛びこんで、しかし自分で居られるというのは、彼女の天性でしょう。

「それでね、息子が言うのよ、僕は三輪車であそこまで行ってきたよ!って、で、それがサンシャインなのよ。大久保からサンシャインまで三輪車で行っちゃうのよね、男の子は」息子さんの事を話している時、昔の東京の下町の風景が彼女の周りに蘇ります。その語りの端々から、立教ガールで自動車部だったというモダンな彼女の人生がふっと匂ってくるのです。「私ね、自動車部でね、昔、這いつくばって自動車の下に潜って、こうやってスパナで整備もして、車検に通したのよ!大学対抗のラリーでね、名古屋から東京まで走って優勝もしたのよ。」

 井出さんの思い出には、彼女の経てきた時代や人生が、くるくると相を変えながら美しい表情で現れます。猫の目の様にキラキラと光りながら・・・いつかきっと、私は彼女の青春の物語を書くでしょう。それにしても、今そこを通り過ぎて行く時というものは、何て美しいんでしょう。(嶽本ファウスト)